短編2
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恋人の体のパーツでよく目にするのは喉仏だ、そしてサンジの目線の高さからよく目にするのは彼女の旋毛。サンジの身長に近付きたくて買った十センチヒールを履いてもその身長差は埋まらない、背伸びをしたって届かない唇には自分からキスをする事も出来ない。それを不満に思った事は一度や二度ではない、だけど身長のせいで嫌いになる事もなければサンジを責める気にもならない。だって、彼女はサンジにそれ以上に愛されている自信があるのだ。些細な気遣いや行動の中に散りばめられているサンジからの愛を上手に受け取り、彼女はふんわりと幸せそうに笑う。
たとえば、話をする時だ。サンジは耳がいい、勿論レディ限定だが。高身長だと人の話が聞き取り辛いとよく耳にするが、サンジはわざわざ腰を折り曲げなくてもスムーズに会話が出来る。なのに、彼女に対してだけは腰を折り曲げてわざわざその小さな口元に耳を寄せるのだ。君の話を聞き逃したくないからね、なんて得意げな顔で片目を閉じるサンジのスーツのネクタイをクイクイと引き寄せ、聞き逃さないでね、と彼女は内緒話をするようにサンジの耳元に唇を寄せた。
アクアリウムバーのソファに座り、読書をしていれば横から長い腕が伸びてきて彼女の細い腰を掴まえる。そして、それが当然かのように彼女を自身の膝に座らせるサンジ。きっと身長差を気にしなくなったのはこれが原因だ、船の中ではソファ、見張り台、それに風呂、その全ての場所でこうやってくっついては向かい合ってお互いの視線を合わせるのだ。ぽこ、っと出た形のいい喉仏ではなく、垂れた瞳を見つめれば、柔らかく目尻が下がり碧を隠してしまう。そんなに笑ったら皺になるわよ、と言いたくなるような蕩けた笑みは彼女にだけ限定公開をしている。
「たまには君からちゅーしてくれてもいいと思うんですが」
畏まった言い方でそんなおねだりをするサンジに彼女は、は、と低い声が出た。年上の彼氏に可愛いは禁句だろうか、でも可愛い、と騒ぐ胸中とは違い、口から溢れた一言は素っ気ないものだった。
「君からちゅーして欲しいんですぅ」
「酔ってるわね、お兄さん」
「素面だぜ?」
そんな事しませんよ、とキス待ちの唇を指で、つん、と押し返す彼女。
「恋人からのちゅーがそんな事なわけねェだろ」
拗ねたような顔で彼女の押し返したままの人差し指をぱくり、と咥えるサンジ。甘噛みの合間にちゅ、ちゅ、と指先に口付けを落としては甘い戯れを繰り返す。
「もう」
呆れたように言ったつもりが、その声はやっぱり目の前のサンジのように甘ったるく砂糖菓子のようであった。サンジは指から唇を離すと無防備な彼女の唇を攫う。
「……サンジはキスが好きね」
「君と付き合うようになってからだよ」
キスより君が好き、そんな副音声が聞こえてきそうな緩んだ顔に彼女はお望み通りのキスを送る。背伸びをしたって届かない唇は今、彼女の目の前にあった。