短編2
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持ち帰っちまうぜ、とその無防備な安心しきった寝顔に問い掛けたところで返ってくるのは寝息だけだ。普段は隙なんてまるで見せないガードが堅い彼女がここまでリラックスしているのは自身への信頼か、それとも連日の疲れか、サンジは前者だったらいいのにと小さく溜息をこぼした。目の前の信号が青に変わるのを確認し、彼女から視線を外す。彼女の眠りを妨げないようにゆっくりとアクセルを踏み、朧げな街灯を横目にすり抜けて大通りに出るとガソリンスタンドを探すサンジ。先程からランプが点灯し、燃料を入れろとサンジに訴え掛けてくるのだ。
ガソリンスタンドの看板を見つけるとサンジは迷い無く、そこに車を入れる。エンジンを切って、助手席に座る彼女の健やかな寝息を確認してから運転席のドアを開ける。春になったというのに未だに夜は風が冷たい、冷たい風に猫背を更に丸めて自身が着ているチェスターコートのボタンをキッチリと閉める。
「……クソ寒ィ」
サンジ以外のドライバーがいないガソリンスタンドではサンジの独り言を気にする者もいない。サンジは料金口に札を数枚入れると黙々とセルフでガソリンを入れていく。それほど長い時間では無いのに妙に長く感じるのは、きっとこの寒さのせいだろう。
車内で眠っていた彼女がキョロキョロと何かを探しているのがサンジの視界に入る、未だ夢の中に片足を浸している彼女の目はとろんと垂れて覚醒しきっていない。サンジは助手席の窓を驚かせないように小さくノックする、コンコンと優しく響くノック音に彼女の視線がサンジに向けられる。ここだよ、と口パクで伝えてみれば、やけにあどけない笑みを浮かべる彼女。彼女は窓を開けようとするが、エンジンを止めてしまっている為に助手席からは窓は開けられない。彼女は膝にのせたバッグからスマートフォンを取り出して、メモアプリを開く。そして、ササッと両手で何かを打ち込んでいく。彼女の意図が読めず、サンジは首を傾げていたが彼女が窓越しに見せてきたスマートフォンの画面を見てホースを落としそうになる。
「……っ、くく、ズリィって、そんなの」
サンジは空いた手で口元を覆うが、ニヤけた口元は戻りそうにない。
『今日は帰りたくないな』
助手席の窓ガラスに映った彼女の表情にサンジは小さく息を吐く、隙だらけな君に恋人は困惑中だよ、とサンジがこぼした言葉は窓ガラス一枚を挟んだ彼女にはきっと届いていないのだろう。サンジはレバーがストップしたのを確認するとホースを元の場所に戻す。そして、運転席の扉を開けると車内に乗り込み、ハンドルに頭を預けて助手席に座る彼女の顔を覗き込む。
「持ち帰っちまっていいのかい?」
今度は寝息の代わりに少しだけ緊張の色を含んだ肯定が返ってくる。サンジはシートベルトをし、脳味噌をフル稼働させる。
「時短ルートで運ぶにはこっちかな」
その口元には満足げな笑みが浮かんでいたのだった。