短編2
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確かに彼女は聖母だ、子供に囲まれながら花冠を器用に編んでいく姿はどこか自身の母親を思い出す。記憶の中の母親は真っ白な部屋から出られなかったが元気だったらこんな姿も見れたのかもしれない。遠くから愛しい光景を見つめていれば、輪の中にいた子供の一人が彼女の指に花の輪っかを通す。頬を蒸気させて彼女を見上げる少年はあろう事か、サンジが言えずにいる一言を簡単に口にする。
『結婚して!』
「はあああああ!?」
彼女は遠くからでもキーンと響く恋人の声に、あらあら、と口元を上品に押さえて笑っている。プロポーズをした少年は両耳を押さえて自身と彼女の時間を邪魔するサンジにイーッと歯を出して可愛らしい威嚇をする。そして、サンジを挑発するように彼女の頬に唇を寄せようとしたのだ。サンジは彼女と少年の間に割って入ると彼女を抱き上げて、大人げないキスを彼女にお見舞いする。
「よく見とけ、クソガキ」
キスはこうすんだよ、と少年に鋭い視線を向けるとまるで宣戦布告をするように彼女の柔らかい唇をもう一度、奪うサンジ。彼女はサンジの胸板をトントンと叩くがサンジの唇は中々離れてくれないどころか、彼女の唇の隙間に厚い舌を侵入させようとしてくる。
「ん……っ、もう、子供達が見てるでしょ!」
「知らねェもん」
子供のように不貞腐れたサンジは彼女を抱き上げたまま、その場を離れようとするが少年がそれを許してはくれない。自身が恋心を向けるお姉さんを誘拐する悪党を退治しようと少年はサンジの長い足に蹴りを入れる。ビクともしないサンジに怖気づく事なく、少年はサンジに挑んでいく。
「おーおー、勇ましいチビだな」
「もう、意地悪しないの」
彼女はサンジの腕から抜け出すと少年と視線を合わせるようにしゃがみこむ。そして、少年の手を握ると先程の花の指輪を少年に返す。
「この人ね、あなたより子供なの」
「このオッサンが?」
「っ、誰がオッサンだ?あ?」
「止めなさいったら」
凄むサンジの顔を押し返して、彼女は少年に優しく笑うと内緒話をするように小さな声でこう言った。
「私ね、結婚するならこの人がいいの」
「ナマエちゃん!おれにも聞かせて!?今、コイツに何て言ったの!?」
「ふふ、秘密よ」
えー、と唇を尖らせるサンジの手を引いて彼女は少年の頭をポンポンと撫でる。
「あなたにも素敵な出会いがありますように」
私みたいに、と口には出さずに彼女は少年に背中を向ける。子供相手に大人げないのはサンジだけじゃない、きっと彼女も同じなのだ。綺麗に仕上がった花冠をサンジの頭に乗せる、陽の光を浴びてキラキラと光る金髪にピンクや白の花が美しく映える。
「くれるのかい?」
「予約よ」
サンジは直ぐに答えに辿り着いたのか、彼女の口元に人差し指を持っていく。
「駄目、おれに言わせて」
自身のスラックスのポケットで寝かせ続けていた指輪は錆びる事なく美しく輝いている。先程まで花の指輪がはまっていた薬指に馴染む銀色の輪っか。
「おれも結婚するなら君がいい」
「……さっきの聞こえてたの?」
「今までおれが君の話を聞き逃した事は?」
「ないわね」
「……俺を選んで、ナマエちゃん」
「もう返してあげないんだから」
玩具を取られたくない子供のように彼女は指輪がはまった左手を背中に隠すとサンジを見上げて幸せそうに微笑むのだった。