短編2
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死は人生の終幕ではなく、生涯の完成だという。馬鹿げた綺麗事だと笑えばいいのか、細い命を繋ぐ彼女の生涯を完成させてあげるのが正解か今のサンジには分からない。
『私の気持ちが分かったかしら』
倒れる前に彼女はそう言った、自己犠牲を続けるサンジにお灸を据えるつもりならもっと他にもやり方があった筈だ。彼女が何を考えて、その言葉を発したかは分からないが嫌でもサンジは自覚した。己と彼女の非情さをだ。ベッドに寝かされている彼女の白くなった頬を指でなぞる、静かな部屋にトクン、トクンとやけに響く彼女の生の音に耳を澄ませ、あァ、最悪だ、と苦い笑みを浮かべるサンジ。
「君はさ、おれなんかよりも強ェからおれを置いて逝っても困らねェだろうね」
神はよっぽどおれが憎いらしい、信仰心なんて端からねェけど君まで連れて行くこたねェのに、とサンジは彼女の頬から手を退かして、やけに明るい月を見上げた。
「君がいなくなったら、月の綺麗さを誰に伝えればいいんだい」
暗闇に消えてしまいそうなサンジの弱々しい背中を窓から覗く月が照らす。
「……私の月は、泣き虫」
酸素マスクの下からくぐもった声が返ってくる、数日ぶりに機能した声帯は掠れて思うように声が出ない。だが、彼女の声はサンジの耳にしっかりと届いた。
「ナマエちゃん……っ……」
「月が綺麗だから、死なない」
彼女が発した言葉は過去のサンジが泣きじゃくる彼女に掛けた言葉だ。君を愛してるからおれは簡単に死なねェ、と痛む全身に目を瞑り、愛しい彼女の涙を拭ったあの日。きっと、彼女も今のサンジと同じ気持ちだったのだろう。
「……置いて逝くぐれェなら、その時はおれも連れてって」