短編2
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嫉妬の対象であるゾロは私の嫉妬の理由の半分もきっと理解していない。今だって、この馬鹿は何を言ってるんだ、という顔を隠しもせずに私に怪訝な視線を向けている。そして、腕を組んだままキョロキョロと辺りを見渡し始める。
「保護者はどうした」
あのぐる眉に構ってもらえ、と寝る姿勢に入ったゾロの肩にパンチを繰り出す。実際、力は入れていないがメラメラと燃える嫉妬心のせいで拳に覇気を纏わせてしまいそうだ。
「両翼って呼ばれてるからって調子に乗らないでよね!」
ガルガルと歯を剥き出しにして、負け犬の遠吠えのようにキャンキャンと吠える私の首根っこを掴まえると丁度キッチンから出てきたサンジの方に私を投げ飛ばすゾロ。サンジは自身の上に落ちて来た私に気付くと素早くキャッチし、私を投げ飛ばした張本人に怒鳴り声を上げる。
「っ、テメェ!レディを投げるなんてどういうつもりだ!?あ!?」
「ったく、うるせェのが二匹になった」
ゾロは心底嫌そうな顔をして片耳を塞ぐ。サンジは修羅の如く怒鳴り散らしているがゾロは一つ視線を寄越し、別の寝床を求めるようにその場から消える。私はメラメラ燃え続ける嫉妬心を消火する事も燃料を足す事も出来ずに中途半端なまま落ち着かない気持ちでその光景を見つめる。
キッチンの中にいたサンジにも私の大声が届いていたのだろう、こちらを見つめてくるサンジの瞳には私への心配が浮かんでいる。サンジは私を抱き抱えたまま、階段に座り込むと向き合うようにして自身の膝の上に私を座らせる。
「……ゾロと喧嘩しちまった?」
「……私が喧嘩を売ったの」
サンジの顔には素直に、何で、と書いてある。私が他人に喧嘩を売る姿がサンジには想像がつかないのだろう。
「ゾロが羨ましい」
「……えっと、マリモのどこに羨む要素があるんだい?」
心底分からねェ、とゾロが消えた方向を睨みつけながら顔を顰めるサンジ。疑問に答えるべく、嫉妬から生まれた不平不満を口に出していく。ゾロやサンジに八つ当たりをしている自覚はあるがどうしても苛立つのだから仕方ない。
「両翼って何!?カッコつけ過ぎじゃない?私だってあそこまで強くないけどサンジと並んで戦えるわよ!?なのに、両翼、両翼!私とサンジをペアで呼びなさいよ、馬鹿!」
勢いをつけ過ぎたせいで肩で息をする私。そんな私の文句を正面から受けたサンジは私の勢い任せな言葉を整理しているのか、その場から動かない。勝手に周りが言い出した呼び名に嫉妬するなんて馬鹿らしいと私だって分かっている。だが、いつもこうなのだ。戦闘ではゾロにサンジを、プライベートではナミにサンジを……周りが勝手に勘違いしては勝手にひと括りにしようとする。
「……おれと君だったらプリンセスとプリンス、いや、運命とか呼ばれちまうのかな」
そこはシンプルにお似合いのふたりとかかな!?と顔をぱっと華やかにしたサンジは恥ずかしい呼び名を口にしながら指を折り曲げていく。戦場でお似合いのふたりが来たぞと強面の敵に呼ばれたりしたら間違いなく私は吹き出してしまうだろう。なんて、緊張感が無い戦場だ。
「っ、あはは、センスが無いわね」
「エッ、自信作なんだけど……!?」
個性とはまた違ったサンジらしいセンスについ笑みが溢れる。サンジではなく他所様に付けてもらった方が確実にセンスの良い仕上がりになる事だろう。
「運命なんて別れた時にネタにされるわよ」
「残念、別れてあげねェし」
おれと一生一緒でーす、と勝手に私の未来予想図に手を加えるサンジ。一生なんて馬鹿らしいと笑うにはサンジへの矢印が大きくなり過ぎてしまった。
「……一生、振り回してあげる」
「本望だよ、レディ」
唇が軽く手の甲に触れ、ゆっくりと離れていく。
この時の私はサンジを甘く見ていた。八つ当たりを抑える為の緩衝材だと思っていた言葉達はどうやらサンジの本音だと気付いたのは戦場の真ん中でサンジが私にプロポーズの言葉を叫び、私とサンジが戦場のバカップルといらない名前で呼ばれるようになってからだ。こんな事になるんだったら、と馬鹿な嫉妬をした過去の自身を恨んだりもしたが今日とて隣でハートと矢印を大量にぶつけてくるサンジと揃いのリングをしているのが全ての答えであり結果であった。