短編2
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お洒落には我慢が必要だと言うがこんなに寒ければ防寒を優先したって誰も文句は言わないだろう。茹だるような夏が過ぎてホッとするような秋が来ると思っていたら芯から冷えるような冬がやって来た。元々、寒さに弱い私は一切の露出を無くしてお洒落や色気を無視した防寒着に袖を通す。正直、顔だって仕舞ってしまいたいぐらいだ。マフラーに顔の下半分を埋めた私はサンジのダウンの中に入り込み、サンジの熱を奪うようにぴったりと鍛え抜かれた体に寄り添う。
「鍋」
「シチュー」
「混浴」
寒さを紛らわす為に温かいものを挙げていけば、サンジの口から混浴という言葉が飛び出す。私は聞いていませんと言うようにイヤーマフを上から押さえれば、頭上から笑い声が聞こえてくる。
「冗談だよ」
「……声がスケベだった」
サンジはわざとらしく咳払いをすると喉のチューニングを整えて、もう一度同じ単語を口にする。
「良い声の無駄遣い」
「っ、くく、良い声とは思ってくれたんだ」
イヤーマフと耳の隙間にサンジの悪戯な指が差し込まれる、耳朶に触れるサンジの指先は普段よりも温かい。末端冷え性だと苦々しい顔で告白してきたサンジの指先は冬場だけ温かい。このままじゃ君に触れられなくなると死にそうな顔をして指先を温めている姿は少しだけ情けない。だが、恋人の欲目を入れたら愛おしいだけだ。
「ワノ国の文化は素晴らしいね」
わざわざ混浴なんて言葉を作るなんて最高だ、とサンジは私の耳から手を離して演技掛かった様子で拍手を送る。混浴なんて都合が良い言葉が無くても普段のサンジは私の入浴時間を狙ってお風呂に突入してくる、偶然が三日も四日も続いた辺りで私はもう諦めた。
「ま、おれ達には関係ねェか。肌を見せ合う仲だし?」
「……偶然を装ってお風呂に突入してくるし?」
「あ、あれは偶々!」
下手な言い訳にくすくすと肩を揺らせば、バツが悪そうにサンジは明後日の方向を向く。
「偶然でも狙ってても別に追い出したりしないのに」
「……変態って叫ばれた挙句、顔にタオルを投げ付けて来たの忘れてねェからね」
「床一面を鼻血塗れにした感想は?」
お互いに身に覚えがあるのか一瞬、二人の間に静寂が走る。何とも言えない気まずげな表情をした私達はお互いの顔を見て小さく吹き出す。
「ふふ、入って来た瞬間に鼻血塗れにするとは思っていなかったんだもの」
「だって、ヴィーナスがいたから!」
サンジの目に映る私は美の女神らしい。過剰評価だとは思うがここで反論をすれば恥ずかしい程の称賛を浴びる事になるのが目に見えている。
「今はね、君の美しい肌を穢したくねェから我慢してるんだよ」
血塗れにするのは床だけで十分だ、とサンジは眉を下げて笑う。
「……まだドキドキしてくれる?」
「今夜、試してみる?おれの欲情の音」
クソ煩ェの、ここが、とサンジは自身の心臓を指差す。それはきっとサンジだけじゃない、仕掛けた私の心臓だって分厚い服の下で煩い音を鳴らしている。
「これこそ、偶然よ……」
自身に言い聞かせるようにそう呟くと熱の上がった頬を隠すようにマフラーに顔を埋める。弧を描いたサンジの口元が意地悪な動きをし、私に近付いてくる。
「なぁに、もう聞こえちまった?」
それか君のここから鳴ってる?と分かりきった答えを求めるようにサンジは私の心臓を射抜くのだった。