短編2
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価値観を変えられるというのはこういう事を言うのだろう。以前のサンジだったらレディを順位付けする事なんて死んでも出来なかった、レディ一人一人に個性があり、価値があるのに貴女が一番優れていると特別な一人を決めるなんて失礼だとすら思っていた。いや、今だって内心では思っているし世のレディ達には悪い事をしていると罪悪感すらある。なのに、感情はどこまでも素直だ。
「おれのナマエちゃんが一番可愛いに決まってんだろ」
サンジの口は無意識にそう動いていた。だが、言った途端、しまったという顔をして自身の口を押さえるサンジに彼女以外の女性陣はサンジを冷やかすように意地悪な笑みを浮かべる。ナミはサンジの腕に胸を寄せて、わざとらしい上目遣いでサンジを見上げる。
「ナミさんが一番可愛いって言葉は嘘だったの?」
「あら、わたしだってサンジに可愛いって言われたわ」
反対側の腕にロビンの胸が当てられる。以前だったら、此処がハーレムか、と貴重な血を撒き散らしながらバレリーナのようにくるくると回っていたサンジ。だが、現在のサンジは隣にいる二人に優しい目を向けると顔の前で手を合わせる。
「二人だって勿論、絶世の美女だし目に入れたって痛くねェ程に可愛いと思ってるよ。でも、やっぱり恋人は別格なんだ」
未だにサンジの発言に頬を赤らめて三人のやり取りをオドオドと見つめていた彼女はサンジの新たな爆弾発言に肩を跳ねさせた。へにゃりと顔面を溶かしたサンジは口癖になってしまった「可愛い」をもう一度彼女に届ける。二人の世界を展開し始めるバカップルに肩を竦めた美女二人は今まで背景になっていた男共を引っ張り、部屋を出て行く。
サンジは皆が部屋から出て行ったのを確認すると彼女の腰に腕を回して背中からギュッと抱き着く。自身の腕の中で小動物のように小さくなっている彼女はサンジから贈られた可愛いを未だに半信半疑な気持ちで聞いている。疑わしいワケでも信用してないワケでもない。ただ、サンジと付き合った時点で一番になる事を期待していなかったのだ。付き合える=一番可愛いにはならないだろうと思っていた、大勢いるレディの中で自身が誇れるものはサンジの特別を求めていない所だ。なのに、サンジは彼女の予想を裏切るように彼女を特別な女にした。
「君はさ、おれが告白されたら誰にでもオーケーすると思ってるでしょ」
「だって、サンジの恋人になれたのは私が一番告白が早かったからでしょ?」
サンジの恋人になれる条件は勇気があるかどうか、彼女は特別になれない事を知りながらも誰よりも早く勇気を振り絞った。サンジは早い者勝ちなのだ、レディである限り誰にでも可能性はある。
「っ、くく、違ェよ」
君に惹かれたからだよ、と彼女に少しだけ体重を掛けてサンジは後ろから彼女の顔を覗き込む。
「……どの辺りに」
「頭の先から爪先っつーのも冗談じゃねェけど、気付いたら君がおれの世界で一番になってた」
良い意味でも悪い意味でもサンジのレディに対する気持ちは平等だった。そして、一方的だった。お返しもいらなければ、靡いて欲しいという感情すら無かった。
「全人類のレディの味方でいてェけどさ、君に対してはなりてェものがあり過ぎる」
恋人、旦那、友達、親友、兄妹、全てに向ける愛を君に贈りてェ、とサンジは言う。なんて欲張りな願望だ、とサンジ自身も苦笑いを溢してしまう。だが、その言葉に嘘は無い。海賊というのは孤独なものだ、自身含め生い立ちや過去に皆、何かしらの傷があり、それを抱えたまま前を向いて航海をしている。深くは聞かないが彼女も大小なり何かを抱えている。その心を守れるなら関係性なんてどうでもいい、ただ、彼女を守るのは己だと自負している。
「愛だね」
「そう、デッケェ愛なの」
だから、そろそろ特別だって自覚してよ、レディ、とサンジは特徴的な眉毛を下げて彼女の肩に顎を乗せる。妥協でも早い者勝ちでも無い、最初からサンジの選択肢は彼女一択だった。