短編2
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「見張っててくれないと頑張れない」
テーブルに突っ伏して嫌だ、嫌だ、と駄々をこねる私の頭にポンと手が乗った。サンジからしてみれば今の行動だって私の頭を叩いたつもりなのだろう。だが、女を叩く事なんて出来無いサンジは強さと勢いを殺して結局、普段の撫でる手付きと変わらない力で頭をポンポンと叩く。
「頑張ってるご褒美?」
「ご褒美が欲しいなら頑張ろうね、レディ」
「サンジのチーズケーキ」
「考えとくよ」
つれない態度に頬をプクッと膨らませれば、サンジは私の目の前に転がっているシャープペンシルを手に取り、私の手に握らせる。
「動かすのはお口じゃなくて、こっち」
はいはい、とサンジの手からシャープペンシルを奪い取って私は目の前にあるノートと向き合う。白紙同然のそれは私のやる気のなさをこれでもかと強調している。
「ヒント」
「まずは考えようね」
サンジは私に言われた通りに隣に座り込み、私が放棄して逃げ出さないように見張ってくれている。普段は砂糖菓子のように甘々のくせにこういう時だけは決して私を甘やかしてくれないサンジ。ノートの罫線の上に文字を踊らせていく、自身の大して綺麗じゃない字がノートを埋めていくのはあまり好きじゃない。
「……サンジってさ、」
「うん?」
「こういう時、厳しいよね」
「おれは君を駄目にしたいけど駄目な人間にしたいわけじゃねェから」
時々、サンジの言っている事が分からない。駄目にしたいのに駄目な人間にはしたくない、私には両方同じに聞こえる。頭の上にハテナを浮かべる私が面白いのか、サンジは隣で小さな笑い声をあげる。
「っ、くく、意味分かんねェって顔」
サンジは私の頬を指先でなぞる。そして、学が無い私にも分かるように言葉の違いを教えてくれる。
「飴だけじゃ人間は駄目になっちまうんだ、誰かが違ェって間違ってるって正しい道に導く事だって大切だよ。君は導かなくたって自分自身でちゃんと道を見つけられるだろうけどさ、オニーサンはちっとだけ心配なの」
「駄目にしたいのに?」
「……あー、それは追々?」
君がもうちょっと大人になったら、とサンジは私を子供扱いする。以前だったらその態度に反発していた事だろう。だが、今は自身の世間知らずな一面も学の無さも理解している。今まで自身がどれだけ狭い世界で生きていたかを日々思い知らされて反発する気も起きない。
「その時が来たら教えてくれる?」
「あァ、勿論」
白紙同然だったノートが埋まっていく、先程まで嫌々動かしていた手はサンジの言葉をキッカケに生き生きと動き出す。このノートが全部埋まったらサンジは私に答えを教えてくれるのだろうか。駄目にしたいの意味は今の自身の頭では解けそうにない難問だ。
「ヒントだけでも必要かい?」
「……ちゃんと考えたい」
「っ、今すぐにご褒美をあげちまいてェ」
駄目だよ、と先程とは真逆の立場になってサンジに注意をする。相変わらず鞭が下手なサンジは私の前に甘い飴を垂らして行く、その飴から目を逸らすように私はノートに視線を落とすのだった。