短編2
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横一文字に縫われた傷痕はファンデーション如きでは隠し切れない、前髪を伸ばしたって隙間からチラチラと酷い傷痕が見え隠れし後ろ指を指されるのだ。女の子なのに可哀想に、私だったら外に出られない、と同情されるのにも嘲笑われるのにも慣れていた。今だってこの醜い顔を恨めしく思っているが幼い頃に感じていた絶望はもう振り切ってしまった。この顔を晒して、私はこういう人間だと胸を張っていられるのはこの一味にいるからだろう。片目に傷がある剣士、鰐野郎みたいで強そうだと騒ぐ船長、いつか絶対おれが直してやると約束してくれた船医、可愛い顔してるんだから自信を持ちなさいと背中を叩いてくる航海士と考古学者。
『君が好きなんだ』
そして、私を普通の女の子として扱ってくれるコック。この告白が質の悪い罰ゲームでも私はどうでも良かった、罰ゲームでも賭けでも好きな人に告白されるなんて特別なイベントを私みたいな女が体験出来ただけでお釣りが来る。だから、サンジがネタバラシをしてくれるまで私は仮の恋人として精一杯楽しんでやろうと思っていた。
だが、どうやら私は判断を見誤ったらしい。目の前には恐ろしい顔をしたサンジ、背中には壁。手首を押さえつけられ何処にも逃げ場は無い、最初から逃げる気は更々無いが何故ここまでサンジが怒っているかが私には理解出来無い。
「サンジ……?」
「なァ、さっきのマジで言ってんの?」
さっきと言われて思い付くのは島で見知らぬ男に言った言葉だろうか。デートをしていたら普段のように私の顔を見て馬鹿にしたような視線を送って来た男がいた。そういう悪意に慣れっこの私は特に気にもしなかったが男は視線だけじゃ飽き足らず、サンジに絡んだのだ。趣味が悪いね、と。他にも下世話な事を言っていたが絡まれたサンジの顔が人殺しのようで私は慌てて二人の間に体を滑り込ました。そして、私はこう言ったのだ。
『彼は優しいから罰ゲームで付き合ってくれてるだけ』
サンジは中々ネタバラシをしてくれない。だが、この関係は私の一方的な想いにサンジが付き合ってくれているだけだ。サンジが終了と言えばそこで関係は終了だ、元の仲間に戻り、この一ヶ月を大事に抱き締めながら日常に戻って行く。
「私、罰ゲームでも嬉しかったよ」
普通だったらこの顔じゃ見向きもされないもん、と場違いな笑みを浮かべる私にサンジは酷く悲しそうな顔をする。
「……罰ゲームなんかじゃねェ、本気でおれは君が好きなんだ」
「ありえないよ、だって……っ、この顔だよ?あの男の人だって言ってたでしょ、趣味が悪いって」
どれだけ綺麗に化粧を施してもワンピースに袖を通しても、この醜い傷は消えない。顔を横に半分にしたような引き攣った傷痕は誰が見ても悲惨で欠点にしかならない。
「趣味が悪ィのは口を出す外野の方だ」
サンジは私の引き攣った皮膚に唇を寄せる。大事な物に触れるような口付けに勘違いしそうになる。
「おれはこの一ヶ月と言わず、君が船に乗ってからずっとドキドキしてる」
君が貶す君の美しさに、とサンジは言う。そして、キツく握り締めていた私の手首から手を離すと代わりに私の両手を優しく自身の両手で包む。
「君が美しさに気付けねェならおれがいくらでも伝えるからさ、外野の心無い言葉に傷付かねェで」
「……だ、だって、言われた事ないから分かんないもん」
「おれは出会った頃からずっと君に言ってるよ」
君と付き合える幸運が欲しいって、そう言ってサンジは包み込む両手に力を入れる。
「幸運の女神はおれに笑ってくれる?」
「私が女神?」
「君の言葉ならどんな言葉でも信じられるよ、おれ」
「……好きって言っても迷惑にならない?」
俯く私を抱き寄せたサンジは大歓迎と声を弾ませて私の好きに耳を傾ける。消え入りそうな私の好きにパッと顔を明るくしたサンジの顔には嘘や偽りは何も無かった。