短編2
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今日からよろしくお願いします、とお互いやけに余所行きの顔をして床に三つ指を揃えて頭を下げた同棲初日の夜。初日に整理しきれなかったダンボールが積み重なり綺麗に片付いた状態とは言えないが、それでも二人の生活が始まるというワクワク感から私達は浮かれていた。お互い着古したジャージやTシャツを身に纏って正座をする姿はどこか滑稽でどちらかともなく笑いが溢れた。
「っ、くく、締まらねェ」
「ふふ、確かに」
フローリングに寝そべって固い、痛い、と当たり前の事を口にして笑い転げる私達にツッコむ者はここにはいない。あるのは絵に描いたような平和だけだ。
「……サンジ」
「なぁに」
「この話を聞いても怒らないで欲しいの」
平和を壊す話題を振る私を許して、と内なる自身が手を組んで許しを乞うように懺悔を始める。そんな私の言葉にゴクリと喉を鳴らしたサンジは緊張した面持ちで頷く。
「あの、今更なんだけどやっぱり寝室は別がいいです」
「や、やだ!」
食い気味のノーに私は歯向かうように再度ノーを言い渡す。あの立派なベッドはサンジに譲るから、とメリットを説明してもサンジは首を縦には振らない。
「そんなに別にしてェ理由は?」
「……毎晩サンジをベッドから床にダイブさせちゃうかもしれないから嫌なの」
「は……?ダイブ?」
「ね、寝相が信じられないぐらい悪いから落としちゃうもの」
今まではどうにかなっていた、行為をした次の日も奇跡的にベッドの上で目が覚めていたが毎晩一緒となると話は変わる。奇跡は毎日起こらないから奇跡なのだ。
「おれと寝たら大丈夫だよ」
「今までは奇跡だったの」
私と寝たら休まらないわよ、とサンジのむくれた頬をツンと指で突きながら言い聞かせる。
「…… ナマエちゃんが寝相悪ィの知ってたよ。でも、おれと寝た日は大丈夫だったでしょ?」
「だから、あれは偶然で……」
フローリングに寝そべっているサンジは私の手を引いて、自身の筋肉質な身体にぴったりと私の身体を添わせる。そして、私の足を自身の長い足の隙間に挟んで全身をぎゅっと抱き締める。
「偶然じゃねェって分かってくれた?」
「……サンジに抱っこされてたから平気って事?」
「そ、正解」
だから、一緒に寝よ、ナマエちゃん、とサンジは甘えるように私の肩に顎を乗せて金髪を擦り寄せてくる。くすぐったい、と胸板を叩いてもサンジは私を離そうとはしない。
「それにさ、君の体温を知っちまったのに一人寝なんて出来ねェよ。君がソファーなり床なりで寝るって言ったっておれは君の抱き枕としてついて行くよ、レディ」
「っ、ふふ、どう見ても私の方が抱き枕じゃない?」
「今はそういう話じゃねェの!君と毎晩一緒かどうかの大事なお話!」
キーンと耳を刺激するサンジの声。両耳を押さえながら私はこの賑やかで少し煩いくらいの真っ直ぐな愛を受け止める。
「寝相が悪くても怒らないでね」
「君と眠れるなら何でもいいよ」
もしも、私がサンジの腕を抜け出してシーツの上を転げ回ってもサンジは穏やかな笑みを浮かべて簡単に私を許すのだ。シーツの海を泳ぐ君はマーメイドみたいだ、なんて馬鹿な台詞で私を包み込むサンジの心は海のように広い。