短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
幸せにして、なんて頼まれてもいないのに勝手に彼女の幸せを決め付けている時点でサンジの出番は無い。この好意はサンジの独り善がりだ。彼女がどれだけサンジを慕って恋だの愛だのと騒ごうが受け入れてはいけないのだ、受け入れたら彼女を不幸せにする。
「恋や愛なんて大体は勘違いだよ」
諦める為に自身に言い聞かせるサンジ。揺れる感情はお互いの勘違いで明日にはケロッと忘れて只の仲間だった頃に戻れたらどんなに楽だろうか。出来もしない想像をしてサンジは短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
「……サンジが恋や愛を否定したら誰がこの馬鹿げた気持ちを肯定してくれるんでしょうね」
「世の中にはあるんじゃないかな、真実の愛や本気の恋が。ただ、これは違ェってだけだよ」
だから、お互い忘れよう、とサンジは彼女の告白を白紙にしようとする。なのに、彼女の頭をポンポンと叩く手は嫌になる程に優しい。
「な?」
体を少し屈めて、彼女の顔を覗き込むサンジの表情は上手く笑えないまま不自然な表情をしている。
「今、どんな顔をしてると思う?」
頬に両手を添えて、彼女はサンジにそう問い掛ける。
「おれかい?」
「えぇ、とっても酷い顔」
放っといたら死んじゃいそう、と彼女は遠慮の無い言葉でサンジの不自然な表情を指摘する。
「……死なねェよ」
心は死んじまうかもしれねェけど、とは口には出さずにサンジは頬に触れる彼女の手を退かす。この手を包み込んで好きだと言えたらどんなに良かっただろうか。だが、それをするのはサンジでは無い。
「君を幸せに出来るのはおれじゃねェよ。もっと、他にいる」
「幸せって何」
「……その時になったら野郎と二人で見つけなよ。っ、くく、二人の幸せってやつ?ちょっとキザ過ぎた?」
喉を鳴らして、戯けるようにサンジは笑う。これではピエロと変わらない、笑った仮面の下に泣いた素顔を隠して相手を笑わせるぐらいが己には丁度いいとサンジは自嘲する。
「サンジが好きよ」
「流石にしつけェよ、ナマエちゃん」
「なら、最後にする。私を振って、嫌いだってちゃんと言って」
そしたら諦めるから、と彼女はサンジを見上げて眉を下げて笑った。シンと静まり返った二人だけの空間に引き攣った音が鳴る。ヒュ、と息が詰まるような音の正体はサンジが失敗した「嫌い」の音だった。
「……っ、言えねェ」
その場に崩れ落ちたサンジは震えた指先で彼女の手に触れ、何度も謝罪を繰り返す。彼女はサンジと目線を合わせるようにしゃがみこむとサンジの頬に空いた手を添える。
「不幸でもいいじゃない、別に」
「……君が幸せじゃねェと嫌だ」
傲慢、そう言って彼女は肉の薄いサンジの頬を摘む。特徴的な眉毛を情けなく下げたサンジは傲慢な自覚があるのか、口を噤む。
「結果はいいのよ、後で後悔でも何でも二人ですればいいわ」
「……おれには勿体ねェぐらいイイ女だね」
「諦めが悪いだけよ」
「おれに必死になる必要なんてねェのに」
彼女の手に自身の手を重ねるサンジ。必死に手を伸ばす彼女の手を振り払う事なんて最初から出来る筈が無いのだ。
「二番目に幸せにする」
「ふふ、一番じゃなくて?」
「君と出逢って恋をして告白までされた世界で一番幸せな男がいるからね、一番はおれに譲ってくれるかい?レディ」
調子を取り戻したサンジは地面に片膝をついて、彼女への愛を口にする。見て見ぬフリをするのはもうお終いだ、幸せと不幸どちらに転がるか分からない未来を後悔するよりも今この愛を手放した方がきっと後悔をする。だから、怖がりは精一杯手を伸ばすのだった。