短編2
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「あー、結び方が分かんなくなっちまったなァ」
棒読みの台詞はサンジの甘えたいサインだ、普段だったら手早くサンジの首元で結ばれるネクタイは首に掛かったまま、だらしなく伸びている。普段からスーツを着用しているサンジがネクタイの結び方で手こずる筈が無い。きっと、目を瞑っていたって手が順番を覚えている筈だ。なのに、サンジは下手な演技をして私にネクタイを結んで貰おうとする。背中に感じる視線に気付かないフリをしていれば、布が擦れる音がする。ベッドから立ち上がったサンジは床に座る私の背中に少しだけ体重を掛けると、また甘えた声を出す。
「ネクタイ、してくれる?」
「サンジみたいに綺麗に結べないわよ」
「気にしねェもん」
サンジのネクタイが肩に掛かる、先を摘んでピョコピョコと私の視界にネクタイが入って来る。やって、やって、と裏声で訴えてくるサンジが可愛くて口元が緩む。
「やってあげるから貸して」
「本当かい!?」
「そんな事で嘘なんて付かないわよ」
体を反転させて、サンジの方に体を向ける。ネクタイの左右を合わせて脳内に浮かべた手順通りに手を動かす。途中経過は上々、迷いの無い手付きでネクタイが結ばれていく。
「上手ェもんだね」
「時々、ネクタイの結び方を忘れちゃう恋人のせいでね」
「フッ、それは困った野郎だね」
そう、本当に困った人なの、とサンジの冗談に乗っかりながら私は最後の仕上げに取り掛かる。ネクタイの形を綺麗に整え終わると床に膝立ちをしてサンジを見下ろす。ボタンが一つ外されているサンジの襟元に指を引っ掛けて、肌に吸い付く。
「……ネクタイを解いた方がいいかい、レディ」
「結んだばかりよ、ダーリン」
「君が仕掛けたのに?」
「仕掛けたわけじゃなくて仕上げよ」
物は言いようだとサンジから学んだ私はサンジの上手い口に丸め込まれる事も少なくなった。以前だったらサンジのネクタイをもう一度結ぶ結果になっていた筈だ。
「君が可愛くてどうにかなっちまいそう」
甘く蕩けそうな碧眼の中にはプカプカとハートが浮かんで困った色が全く見えない。それどころか、困らせて欲しい、振り回されたいと顔に書いてある。
「物好き」
素っ気無くそう答えれば長い腕が腰に回る。物好きで結構、とサンジの甘い声が鼓膜を揺らす。そのまま、さっきの仕上げの仕返しをするようにサンジは私の首筋に唇を当てる。ワンピースの襟に隠された赤い花弁の上に唇をのせて、深い赤を重ねる。嫉妬深いサンジから贈られた花弁を集めていったら花束が出来そうだ。私はされるがままサンジに肌を差し出す。
「……サンジって何で隠れるところに残すの?」
「なぁに、見せびらかしてェの?」
私にそんな趣味は無いが一般的にはキスマークというのは独占や牽制という意味合いでは無かっただろうか。
「ただの興味よ」
興味ねェ、と意味深な笑みを浮かべたサンジは私の肌に残した花弁を指でなぞる。
「普段はレディに目がねェと思われてる男がさ、一人だけに狂って、みっともねェ程に溺れてるって事実を君だけに勘違いしねェで知ってて欲しいから……おれは誰にも教えねェの」
それに見える位置に付けちゃ品がねェだろ、とサンジは私の肌に指を滑らせる。痕の一つも無い白肌に愛おしげに頬を寄せて、サンジはうっとりと目を細める。
「……本当困った人ね」
「でも、好きなんでしょ?」
「そうよ、愛しくて困ってるのよ」