短編2
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他力本願、人任せ、そう言って私を責めればいいのにサンジは私の冷たくなった手を両手でぎゅっと握って寂しいと口にした。寂しい思いをさせているのは間違いなく私だ、今までサンジに愛してると好意を伝えた事は零に等しい。最初は照れが理由だったが今は言わなくても分かるでしょという慢心がこの事態を招いた、事態なんて大袈裟な言い方かもしれないが目の前のサンジの様子からして事態と言っていい程にサンジは不安げに俯いてる。
『愛してるって君の口から聞きてェなァ』
この時の私はいつものお強請りが始まったと内心サンジを面倒臭いと思ってしまった。そして、普段と同じように適当に丸め込んで誤魔化した。いつもだったら、そこでサンジは上手く誤魔化されてくれるのだが今回は私の想像を裏切って切ない笑みを浮かべるサンジ。
『……愛してないから言えないかい?』
『何でそうなるの』
『言われてねェ言葉をどう信じればいいんだい?おれは君に言われたら嘘でも信じる、それ以上を掘り下げるつもりもねェ、だけどね、聞いた事ねェ言葉を信じれる程、大人じゃねェんだ』
その声を聞いた途端、私はやっと事の重大さを理解した。頭から冷水を被ったかのように全身が冷える、別れへの恐怖か、ここまでサンジを不安にさせていた自身への怒りか。
私は冷えた指先をサンジの頬に伸ばした、泣いていないのに目の前のサンジが泣いているように見えたのだ。その頬が濡れていない事にホッと息をついて、震える声で私はサンジの名前を呼んだ。
「サンジ」
「惨めになるから謝んねェで」
そう言ってサンジは私の唇に指を置く、シーッと困ったように笑われては何も言えなくなってしまう。
「それにさっきのは嘘、愛されてねェなんて一度も思った事ねェよ……ただ、愛してるって言われてェのは本当」
サンジの指が唇から離れ、人差し指を立てたまま一回だけと制限を付けて私からの愛してるを乞う。
「君からの愛をちょうだい」
長らく声を発していないかのように喉が張り付く。私の数秒はサンジにとってはもっと長い時間のように感じるのだろう、沈黙に合わせて個性的な眉毛が段々とハの字に下がっていく。
「あいしてる」
緊張に震える声はサンジのようにスマートに愛を語れやしない。だが、一度口にしてしまえば濁流のように言葉が溢れて止まらなくなる。口にしなくても理解してもらえると思った事、サンジの気持ちに気付かなかった事、ずっとサンジを私なりに愛していた事、言い訳がましい私の告白に一つ一つ相槌を打っていくサンジ。
「……あァ、参ったな」
「へ」
「一回だけじゃ満足出来なそうだ」
サンジは私の首に腕を回して、自身の頭を私の肩に埋めた。そして、また強請ったら聞かせてくれるかい、と小さな些細なお願いを私にする。
「強請らなくても、」
私はあなたを愛してる、そう口にした言葉はもう震えてはいなかった。私は顔を上げたサンジの顔を見て再度、馬鹿の一つ覚えのように愛を口にする。
「(言わなくても伝わる、そんなのきっと嘘ね)」
だって、愛を口にする度にサンジの頬は薔薇色になり幸福に微笑む。そんな顔は愛を口にして来なかった頃では見られなかった。
「……ナマエちゃん」
「ん?」
「おれも君を愛してる」
サンジからの愛をぎゅっと抱き締めながら、私は少し背伸びをしてサンジの唇に自身の唇を重ねたのだった。