短編2
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船上で私の身体は重宝されると思う、ナミという有り難い存在がいるこの船ではあまり目立った活躍は出来ていないが突然の天気の移り変わりを知らせる事が出来る。過去に負った怪我が痛みで天気を知らせるのだ。疼く足を軽く擦りながら雨雲が近くに来ている事を知らせれば、皆は疑う事なく雨に備えて船内に荷物を入れる。私も後に続こうと足を一歩踏み出せば、長い腕が私を引き止める。
「痛みを我慢するのは良くねェよ、ナマエちゃん」
「少し痛むだけよ」
「痛み止め効いてねェだろ」
歩き方で分かるよ、とサンジは私の引き攣った皮膚に視線を向ける。醜い傷に顔を顰める事もせずに私を軽々と抱き上げるサンジ。
「それに重いもんなんて野郎に持たせときゃいいんだよ」
「なら、私も重い物かしら?」
冗談でそう口にすればサンジは私の鼻の頭にキスをして、羽よりも軽ィよ、と芝居掛かった甘い台詞を口にする。
「ふふ、ソファーまで運んでもらっても?」
「君の行き先はソファーに座るサンジくんの膝の上だよ」
「固い膝で癒やしてくれるの?」
あぁ、とサンジは肩を竦めるとソファーに座り込み、言葉通り私を膝に座らせる。座り心地はあまり良くないがサンジのぬくもりが直で感じられるのは悪くない。
「足、楽な体勢にしていいからね」
お言葉に甘えて足を遠慮なく伸ばせば、サンジの手が私の足に触れる。私を労ってくれるその手には下心なんてない、普段は煩悩まみれだというのにこういう時だけは泣きそうになるくらいに優しいサンジ。
「……サンジの手ってすごいわよね」
「ただの野郎の手だよ?」
空いていた手を開いたり閉じたりしながらサンジはそう口にする、サンジが言うように特に目立った点は確かに無い。料理人なだけあって手を大事にしているサンジの手は男らしく骨張っているがささくれが目立ったり荒れていたりはしない。
「痛みが和らぐの」
引き攣った皮膚の上を移動するその熱が痛みを連れて行ってくれるようだ。
「痛みも傷痕も消してやれねェのに?」
「でも、忘れさせてくれるじゃない」
サンジは私を傷物扱いしない、痛みが出た日は率先して今日のように気遣いを見せるのに普段は傷に見向きもしない。元々、そこに傷なんて無かったのでは?と錯覚してしまうくらいだ。
「傷痕を気にしなくて済むの」
「……君の精神の美しさも外見の美しさも傷一つじゃ何も変わらねェよ。前に君がさ、ナミさんやロビンちゃんの真っさらな肌が羨ましいって泣いていたのを覚えているかい?」
「……えぇ」
「おれはその時、何も言えなかったんだ。だって、君の傷を短所だと思っていなかったから」
美しい個性だと思ってたんだ、とサンジは秘密を打ち明けるようにそう語る。
「君が痛みに顔を歪める瞬間は大嫌いだ、傷が憎くて仕方ねェ。だけど、君の傷を汚ェって思った事は一度もねェよ」
「……美しい個性なんて言われたら嫌いになれないじゃない」
「君が傷を見て悲しむ事が減るのならいくらでもおれは口にするよ、君は傷があってもおれの一番の宝だ。価値が下がったりなんてしねェよ」
サンジは私を優しくソファーに下ろすと床に膝をつき、私の引き攣った肌に口付けを落とす。
「君は一級品だよ」
「そうしたのはきっとサンジよ」
引き攣った傷痕と一緒に刻まれた心の傷はいつの間にか塞がっていた。真っさらな心のままサンジに腕を伸ばす私はもう傷付いてはいなかった。