短編2
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まとめてある手配書を何の気なしにパラパラと捲っていれば、ある一枚の手配書に手が止まる。自身の好みの風貌をした男がそこには載っていた。中々の懸賞金がその首に懸かっているようだが見た目だけを挙げれば海賊らしくなく、紳士的な見た目をしていた。自身の恋人であるサンジとどこか雰囲気が似ている気もするがサンジのように可笑しな似顔絵でも鼻の下を伸ばした手配書でもない。
「あんたの好みって分かりやすいわよね」
「へ」
「ほら、この人ちょっとサンジくんに似てるじゃない」
写りは断然こっちの方がマシだけど、とナミは私と似たような感想を口にしながら手配書に目を通す。
「金髪碧眼、胡散臭いスーツ」
ナミの整えられた爪先が男とサンジの共通点を指差していく。自身の性癖がバレていくようで恥ずかしいが、ここまでくると否定する気にもならずヘラヘラと笑う事しか出来ない。
私の笑い声を掻き消すように背後からガタンと音がする。音に釣られるように後ろを振り返れば、床にぺたりと座り込んでシクシクと目を擦るサンジが涙目で私を見上げていた。正面にいるナミは面倒臭い事に私を巻き込まないでと言いたげな顔をして一瞬で部屋を出て行った。
「浮気だ!」
「手配書を見てただけよ?」
「……お、おれよりマシって言ってた」
言ったのはナミでしょ、とは言わずに私は大袈裟にショックを受けるサンジに苦笑いを浮かべる。そして、そんな絶望的な顔をする程に私が好きなのと少しの優越感が顔を覗かせようとする。その場は何とかサンジの機嫌を取って乗り切ったが、学ばない私は似たような事を繰り返す。同じ手配書を島で見掛ければ、あ、とまるで知り合いのように足を止めてしまったり、やっぱり格好良いのよね、とナミに話してみたり懲りずに名と顔と懸賞金しか知らない男に熱を向ける。これは言うならば、恋というよりもアイドルに一時的に向けるような感情に近い。だが、サンジからしたら恋人が知らない男に黄色い声を上げるのは我慢ならないのだろう。私に背を向けて黙り込むサンジの表情は読み取れない。怒っているのか、泣いているのか、また絶望的な表情をしているのか、どちらにしろ良い感情は持っていない筈だ。最近は私が誰かと話している隙を狙って私に視線を向けてくるサンジ。含みを持ったその視線は私を疑っているのか時々、刺すように鋭くなる。
「……おれじゃ満足出来ねェ?」
グッと掴まれた手首はきっと痕になっているだろう。サンジらしくない力加減に怒ればいいのか、普段とてつもなく配慮されていた事に感謝すればいいのか分からない。
「あれは違くて……!」
「あんなに熱っぽい視線、おれは向けられた事ねェよ」
普段の素っ気なさが裏目に出たようだ、サンジの金髪の隙間から覗く片目は切なげに揺れて私を非難する。
「恋人とアイドルは違うでしょ」
「……恋人と野蛮な海賊の間違いだろ」
「ふふ、野蛮な海賊がそれを言うの?」
サンジの腰に腕を回してその顔を見上げれば、言葉を探しているのかサンジは黙り込んだままだ。
「それにサンジの目はいつから節穴になったのかしら」
視線が絡み合わなくなって一週間が経つ、お互いを見ているのに視線が交わされる事はない。
「ちゃんと見て」
「……やだ」
だって、本当に違ったら死にたくなる、とサンジは弱々しい声を出す。私はサンジの両頬に手を伸ばして、自身の顔の目の前に強引にサンジの顔を持ってくる。いてェ、という文句には耳を塞ぎ、額同士をゴツンとぶつける。
「サンジの手配書が変で良かった」
「……へ、変」
「だって、野蛮な海賊に目を付けられちゃう」
頬から手を離して、首に腕を回す。
「私みたいな、ね?」
固まってしまったサンジの唇にキスをする、この熱は間違いなく恋人にしか向けられない。それに元々、金髪碧眼なんて好みじゃない。好きになった人が好みという言葉通り私の好みを変えたのはサンジ自身だ。
正気に戻ったサンジは私を抱き上げると息が止まりそうなキスをお見舞いしてくる。普段はマナーだと言って目を閉じるくせに今は重たい瞼の隙間から碧を覗かせて、チリチリと身を焼くような熱を私に向ける。
「……最後まで責任取ってくんねェと嫌」
釣った魚だって餌が無きゃ逃げちまうよ、とサンジは私の舌に軽く歯を立てた。甘噛みされた舌を引っ込める前にサンジの舌が絡み付く。ねっとりと執拗いキスに逃げ場を失った私はサンジの身体にしがみつき、飢えを訴える野蛮な海賊に全てを奪われるのだ。