短編2
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明日の朝食の下拵えを済ませてリビングに戻れば、ソファーの上でうつら、うつらと船を漕ぐ彼女。彼女の姿はまるで童話に登場する眠り姫のように美しいとサンジは悩ましげな息を吐く。だが、彼女の顔に未だに化粧が施されているのに気付き、サンジは彼女の肩を優しく揺する。
「ナマエちゃん、コンタクト外さねェでまた寝てるだろ」
君の美しい瞳に何かあったらおれは、と悲痛に満ちた声で彼女を起こすサンジ。
「ん……」
穏やかな眠りを邪魔された彼女はイヤイヤと子供のようにサンジの肩に頭を擦り付けて抵抗を見せる。そんな彼女に胸をぎゅっと掴まれながらも心を鬼にして起こす手を止めないサンジ。
「なぁに、赤ちゃんみてェな事して」
「ばぶ」
「……くっ、無ェ筈の子宮が疼いてる」
君のママになりそう、と無い子宮を撫でるサンジに眠気を含んだ彼女のふわふわとした笑い声が届く。さんじまま、なんて不名誉な呼び方をされたって彼女から呼ばれるのなら愛しいだけだ。庇護欲を掻き立てられたサンジはふわふわとした笑い声を上げる彼女の頬に手を添えて、ちゅっと頬にキスをする。
「ふふ、寝ねェでって」
「……目が勝手に閉じるの」
目を擦ろうとする彼女の手にストップを掛けて、テーブルに放置されたシートに手を伸ばすサンジ。
「化粧はおれが落とすからコンタクトは自分で外せる?」
「甘やかしてくれるサンジくんがだいすき」
調子の良い台詞だとは思わない、彼女は常にサンジに愛を持って接してくれる。そんな彼女だからこそサンジだって常に愛を返したくなるのだ。おれもだいすきだよ、と返しながら彼女の顔にメイク落としのシートを滑らせるサンジ。
「だけど、コンタクトは帰って来た時に取ろうね。危ねェから」
「やだ」
「だーめ、ナマエちゃん」
「……だって、サンジくんの顔見えなくなっちゃう」
眼鏡のレンズ越しでは味気無い、その数ミリが憎らしいと彼女はつまらなそうな顔をする。そんな彼女の頬を両手で挟むサンジ、鼻が触る位置まで顔を近付けると彼女にこう言った。
「この距離ならどうだい?」
「……分かってやってるでしょ」
「さぁ、おれは解決策を提案してるだけだよ」
愉快そうに笑うサンジは彼女が自身の顔に弱い事を知っている、普段は何てことのないようにサンジを貶したりするくせに実際の所は違うらしい。今だってサンジの顔面を手のひらでグイグイと押しながら目を逸らす彼女。
「愛が痛ェ」
「だ、だって顔近い……っ、むり」
「いつもキスする時はもっと近ェだろ」
落としたチークよりも真っ赤な頬をした彼女の眠気はもう何処かに飛んで行ってしまったようだ。自身の腕から逃げ出し、洗面所に向かう彼女の背中にサンジは声を掛ける。まだ、落としきってねェけど大丈夫かい、と意地の悪い質問をするサンジに彼女はベーっと舌を出してサンジから隠れるように洗面所の扉を閉めるのだった。