短編2
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上手くいかねェなァ、とサンジは渋い顔をしてマンションのベランダで煙草を吸う。普段だったら美味い筈の煙草も心なしか不味い気さえする。まだ吸えそうな煙草を水が入った空き瓶に押し込み、その場にしゃがみ込むサンジ。目線の先は隣を区切る為に設置された壁、あの壁の向こうにはサンジの愛してやまない年下の女の子が住んでいる。だが、実際付き合っていると思っているのはサンジだけかもしれない。サンジが一歩進めば、彼女は二歩下がってしまうような関係にサンジはそろそろ嫌気が差していた。
お行儀良くカーペットの上に正座をする彼女はサンジの丸っこい字が並んだ用紙を見ながらピシリと固まる。上から順に数字が並び、その横にはとんでもないルールが書かれている。敬語を使ったらナマエちゃんからキス、遠慮したらサンジくんの膝で一日を過ごす事、と上から順番に見ただけでも初心な彼女にとってはハードなルールしか書いていない。
「……えっと、サンジさん」
「サンジくん」
サンジくんって呼んで、と語尾にハートマークを付けて背中からぎゅっと抱き着いてくるサンジに彼女は戸惑ったように視線を彷徨わせる。えっと、あの、と中々本題に辿り着かない彼女に普段は甘い顔をして見守るのがお決まりのパターンになりつつある。だが、今日のサンジはひと味違う。
「はい、ルール二つ目。遠慮したらおれの膝で一日を過ごす事」
そう言って軽々と彼女を抱き上げるサンジ。そして、宣言通り自身の膝に彼女を座らせる。
「サンジさ、サンジくん!」
「なぁに、レディ」
「……これって、何ですか?あ、違くて……!何!?」
必死にキスを阻止しようとする彼女にサンジの目尻は下がりっぱなしだ。だらしない顔を引き締めなければいけない、と思いながらも口角は上を向き、目尻は下に向かうのをやめない。
「君とちょっとだけ前進したかったんだ」
「……前進ですか」
「キス」
あ、とルールを思い出した彼女の顔はキスを嫌がっているわけでは無さそうだった。自身の唇を指でなぞって、一大決心をしたかのように大きく頷く姿はほんのちょっとだけムードに欠ける。サンジはそんな彼女の両手を握り、力み過ぎだよ、と肩を揺らす。
「だ、だってサンジさんとキスしたかったから」
ずっと、と彼女はとんでもない事を言い放ち、サンジの余裕ぶりたい心を揺らす。いや、最初から余裕なんて全く無い。あの力任せのルールを見れば、サンジの必死さは一目瞭然だ。
「予定変更」
「?」
サンジは彼女に顔を近付けると甘い低音を出す。
「君にやられっぱなしになる気はねェよ」
こういうのはまず彼氏からしねェとね、とサンジは彼女のふっくらした唇を指でなぞると紳士を気取って一言だけ口にする。
「失礼、レディ」
それを合図に触れた唇は決して紳士的では無かった、好きな女を味わい尽くそうとする獣と大して変わらない。だが、彼女も鼻で一生懸命息をしながらサンジのシャツを離そうとはしない。先程の言葉は出任せでもなく、彼女の本音だったのだろう。
「っ、ん」
唇が離れても鼻の先は未だにぶつかったまま、お互い顔を離そうとはしない。どうだったか、という質問は今の二人には野暮なだけだ。
「君とこれ以上もしてェって言ったら軽蔑する?」
「……恋人なら、普通じゃない?」
彼女は少しだけ砕けたような口調でサンジにそう返す。君もおれと同じだったらいいな、とサンジは彼女の首に腕を回してその華奢な肩に甘えるように擦り寄った。
「サンジさん」
「ん?」
「リードしてね」
一歩前進のつもりが数メートル先にまで前進したこの関係に次はサンジの方が動揺を見せる。強引に引っ張るつもりが引っ張られていたのはどうやらサンジの方だったらしい。