短編2
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サンジのモーニングルーティンは自身の革の手帳を開く事から始まる。気ままな海賊に手帳が必要あるのかと問われそうだが、サンジの手帳は今後の予定を確認する為の物では無い。日付に記されたハートマークは彼女との記念日を表す物だ、一日おきに記される彼女との些細な記念日。他人からしたらただの何でも無い日だがサンジからしたら毎日がアニバーサリーだ。それに今日はサニーの船内にサンジと彼女の部屋が用意されてから一年が経った記念日でもある、フランキーが増築してくれたこの一室は文字通り二人の愛の巣だ。防音素材を施した壁、扉には鍵、フランキーの配慮が行き届いた造りに頬を赤くしていた彼女はベッドの上で穏やかな寝息を立てている。現在、島に停泊しているサニーにはサンジと彼女の二人しかいない、他の仲間達は好き勝手に島を楽しんでいる頃だろう。
「……起こしちゃ可哀想だ」
ベッドの端に座り込んだサンジは彼女の幸せそうな寝顔に起こす手を止める。ベッドサイドに置かれた時計に視線を向ければ、普段の起床時間よりも随分と経った時間を示していた。彼女がパジャマ代わりに羽織っているサンジのシャツからは無防備な肌が覗いている、光に照らされた健康的な肌には花弁が舞ってサンジの理性を試す様に赤く咲く。こりゃ、目に毒だ、とサンジは彼女のシャツのボタンに手を伸ばして肌を隠すように上までボタンを留めていく。
「……おはよう、サンジ。あら、寝起きでも襲う気?」
ゆるゆると片目を開けた彼女は瞬きを数回繰り返すと、悪戯めいた表情でサンジの指を撫でる。
「っ、くく、よく見て?」
逆だよ、とサンジは自身の無実をアピールするように両手を顔の横に上げる。彼女はボタンがキッチリ留められたシャツに視線を向けると可笑しそうにくすくすと肩を揺らし、サンジの首に抱き着いた。
「なぁに、寝ている私がセクシー過ぎた?」
「あぁ、目が焼けちまいそうだった」
「ふふ、冗談なのに」
体を引き寄せられたサンジは彼女の顔の横に手を付いて覆い被さるように彼女の額に口付けた。
「おれは本気なのに」
額に触れていた熱は瞼を通って鼻の先に下りてくる、頬に触れていた熱は横にずれて目的地である唇を攫っていく。くすぐったさに身を捩りながらもモーニングルーティンになりつつある朝の挨拶という名のキスを受け止める彼女。
「今日は何の日か分かるかい、レディ」
「サンジは毎日が記念日じゃない」
サンジとは違ってお互いの誕生日ぐらいしか覚えていない彼女。どちらかといえば元々、疎い事もあって記念日に対しては全てサンジに任せている。お祝いしたければどうぞ、とサンジに毎回委ねてはそれに便乗させてもらう形をとっている。
「愛の巣が出来てから一年が経つんだよ」
互いを想い合い、日々を大切に生きてきた。この部屋には一年以上の思い出が詰まっている。
「男部屋と女部屋の遠距離は辛ェからフランキーに感謝だね」
「どこが遠距離なのよ」
サンジの冗談か本気か分からない言葉にツッコミを入れる彼女。きっと、サンジにとったら後者なのだろう。
「もう君がいねェと朝は来ねェし夜が終わらねェ」
「責任重大ね」
「君がそれだけ大きい存在って事だよ」
彼女を抱き締めてシーツの上に倒れ込むサンジ。以前のサンジだったらここでキスはしなかった、今は隙を見て彼女の唇を奪っていくが最初の二ヶ月はそれは酷いものだった。ああ見えて乙女な一面を持ち合わせているサンジは彼女がキスを強請っても歯を磨きに部屋を一度出るような一面を持っていた。気にしないでいい、と伝えたってサンジは素直に首を縦には振らなかった。
『サンジくんは繊細なの』
君に拒否されたら乙女心は粉々に砕けちまう、そう言って時差でくっついた唇からは市販の歯磨き粉の味がした。以前のミント味のキスより今のサンジとのキスの方が彼女は好きだ、目を閉じても相手がサンジだと感じられるから。唇が離れると彼女は薄く目を開いて正面にいる唯一を目に焼き付ける。陽の光を浴びて金髪を揺らすサンジの方が朝を知らせる象徴のようだ。そして、夜になれば愛の巣に月の光を運んでくるのだった。