短編2
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彼の部屋から掻っ払った一箱を吸い切ったら思い出にしよう、と自身の中で決めた。煙と一緒に吐き出して私の中にいる彼を火葬していく、碌な男では無かったが悪い男では無かった。ただ、潮時だったのだ。
「……今も未練があるから吸ってるって事かい?」
女部屋の私のスペースには島で買い溜めをした煙草がギッシリと積んである。所謂、カートン買いというやつだ。
「未練があるように見える?ダーリン」
反応を試すようにサンジのネクタイを引き、煙をフーッと吐き出す。まるでそういう合図をするように整えられた顎髭を撫でれば、サンジは聞き分けの悪い子供のように顔をプイっと逸らす。
「誤魔化されてあげねェ」
「なぁんだ、つまんないの」
「……君の今の彼氏は誰?」
煙草を吸う度に嫉妬の炎を燃やすサンジは勘違いをしている。未だに私が過去の男に未練があると思っているのか、煙草を吸う私にいい顔をしない。私が離れられないのは朧気な男との記憶ではなくサンジとの唯一の共通点である煙草の方だ。
「サンジだけど違ったかしら?」
「違ったら顔も知らねェ野郎をオロさなくちゃいけねェ」
随分と過激な彼氏様ね、とまるで他人事のように笑っていれば指の隙間から煙草を奪われてしまう。そして、煙の代わりにサンジのざらついた舌が口内を転がる。
「……んっ、もう、なに」
「趣味悪ィ煙草よりこっちにしなよ」
「サンジだってヘビースモーカーでしょ」
煙草を奪い取ってサンジの唇をツンと指で突けば、下唇が不満を訴えるように前に出た。
「……君の思い出に他の男がいるのが嫌、煙草だって男の影響じゃなくておれが教えたかった」
「ふふ、サンジは体に悪いって教えてくれないでしょ」
「……うぅ」
図星だったのかサンジは床にベッタリと溶けたまま、私の吸う煙草を憎たらしげに睨む。
「昔の男じゃなくて、おれに汚させてよ」
「レディ第一のサンジらしくない発言ね」
「そ、おれは勝手なんだよ」
勝手に嫉妬に狂って勝手に自滅してたらキリがねェ、とサンジは自身の顔を隠すように腕をクロスさせて仰向けに倒れる。
「女って薄情なのよ」
「……どういう意味だい」
「最初は過去を忘れる為に吸っていた筈なのに今は貴方を思い出す為に吸ってるって事」
サンジが変えて欲しいなら同じ煙草にしようかしら、とサンジの胸ポケットに入った煙草を拝借する。起き上がって煙草に火を付ければサンジとのキスが煙と一緒に蘇る、苦いのか甘いのか分からなくなるおかしなキスだ。
「……サンジと別れてもこれは吸えないわね」
「どうして」
「あなたとキスしてるみたいだから」
思い出に出来なさそうと肩を竦める私にサンジは自身の唇を指差してにんまりと笑みを作り、思い出になんてしてやらねェと悪戯に舌を出すのだった。