短編2
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ブルックから拝借したアコースティックギターを持ってサンジの巣であるキッチンに突撃する。勢いを殺せなかった扉は大きい音を立ててサンジに来客を知らせる。
「……え、敵襲?」
「敵襲よりも素敵な事よ」
そう言って私はサンジの目の前にアコースティックギターを差し出す。突然の私の行動にはてなマークを浮かべたサンジ、忙しなくギターと私の顔を交互に行き来するサンジの視線。
「弾いて、サンジ」
数十分前にヨホホホと笑いながらサンジの秘密を教えてくれたブルック。男子部屋ではたまに弾いてくださるんですよ、と。
「うちにはもっと上手ェ音楽家がいるだろ?ナマエちゃん」
「男部屋では弾いてるんでしょ……?」
「チッ、ったく、誰だよ……」
バラした奴、と短くなった煙草を灰皿に押し付けるサンジ。その顔は怒っているというよりもバツが悪いと言いたげな表情だ。
「……バラティエにいた頃に楽器が出来る野郎はモテるって言われてちょっと覚えただけだよ、レパートリーも少ねェし……あんま上手くはねェからさ、君の耳に届けるにはお粗末っつーか、耳障りかもよ?」
両手の人差し指を合わせて落ち着き無く言い訳を重ねるサンジの前に再度アコースティックギターを差し出す。
「サンジの音が聞いてみたいの」
「……後悔しても知らねェからね」
渋々、アコースティックギターを受け取ったサンジは椅子に座って六本の弦に触れる。緊張する、と苦笑を浮かべながら迷いの無い手つきで弦を弾いていくサンジ。
「And I can't sweep you off of your feet……」
奏でる音の上にサンジの心地の良い低音が乗る。この曲は男部屋で奏でるような曲ではない、最初から最後まで一途な愛を歌うラブソングだ。長い前髪に隠れてあまり表情は見えない。真剣な表情で自身の手元を見ているサンジは間違いなく格好良かった。
「満足したかい、レディ」
伏せられていた碧眼がこちらを向く。だが、直ぐに驚いたようにサンジの瞳がまんまるに見開かれる。
「泣く程、酷ェ出来だった!?」
「……ただ、私がはじめて聴く人になりたかったな、って」
このラブソングは誰宛なの、と鼻の頭を赤くしながらサンジに尋ねる。自身の黄色のシャツの袖で必死に私の涙を受け止めていたサンジは一瞬、動きを止める。
「内緒で聴いていたブルック達が羨ましいわ」
「……男部屋でラブソングなんて弾かねェよ。それにさっきの曲は即興っつーか、君専用」
君以外は知らねェよ、とサンジは口元を緩めて小さく笑う。
「ストレートな愛を口にする事はおれにとって難しい事じゃねェ、今までのおれだったらいくらでも口にしてた」
「……サンジ」
「でも、ナマエちゃんには難しい。君の細い肩には背負えねェ重さになっちまったから」
歌詞に忍ばせて届ける事しか出来ねェ、とサンジは泣きやんだ私の頭をポンポンと叩くとギターのボディに触れる。
「おれは愛を見つけたんだよ、ここでね」
もし、君を抱き上げられなくなっても、ときめかせられなくなってもこうやって隣にいて欲しい、と歌ったサンジの愛はどうやら私だけに向かっているらしい。