短編2
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「今は何て言ったの」
『君が好きだって』
この世界には複数の言語がある、歴史と一緒に滅びた言語もあると聞くが共通言語しか分からない私には未知なる存在でしかない。ロビンに聞けば、きっと詳しく丁寧に教えてくれると思うがそこまでの熱心さは残念ながら私には無い。だが、そんな私にも一つだけ理解したい言語があった。サンジが時々使うノースの言語を理解したかった、秘密を打ち明けるように私にだけ使われる言語。
「……私じゃなくてロビンに言えばいいのに」
『他のレディに告白しろだって?冗談じゃねェ』
「そんな顔されても分からないものは分からないのよ」
今だけはサンジが宇宙人に見える、知らない言語で私を困惑させてくるサンジ。きっと、私が戸惑っている姿を見て面白がっているのだろう。
「なら、宿題ね」
「宿題?」
「『君が好き』の意味を調べておいで」
それを返してくれるかは君次第だけど、とサンジは灰皿に短くなった煙草を押し付けて椅子から立ち上がる。
「提出日は?」
「ナマエちゃんが出したい時でいいよ」
サンジはそう言うと手をひらりと振って私に背を向ける。離れて行く猫背の背中を見つめながら私は忘れないようにサンジが言っていた言葉を繰り返し唱える、知らない言語は時に呪文のようだ。
ロビンに言えば数秒も経たない間に答えに辿り着ける筈だ。だが、それは何か違う気がした。サンジは人に聞くなとは言わなかった。それでもサンジが忘れたい筈の故郷の言葉を使ってまで私に何かを伝えたいのなら自身で答えを導かなくちゃいけない気がした。だから、ロビンに本を借りた。信じられない分厚さのノースの辞書だ、今までサンジに言われた言葉の数々を思い出しながら点と点を繋ぐように答えに触れる。
『君が好き』
『おれだけの君になって』
『気付かなくていいよ』
『ただ、想わせて』
『意地悪な伝え方をしてごめんね』
辞書を見ながら紙に訳していけば只の真っ白な用紙がラブレターに変身していた。所々、不安な所はあるが意味はきっと間違っていない筈だ。
「……馬鹿な人」
私が調べなかったらサンジはこの言葉達を見殺しにしたのだろうか、伝わらない挙句に返事すら返ってこない言葉に意味など無い。私はペンを握って再度、辞書とにらめっこを繰り返す。そして、何度も書いては消して正しい発音すら分からない言葉の台本を書いていく。
紙を握り締めた私はキッチンに立つサンジの背後に忍び寄り、その広い背中に抱き着いた。振り向こうとするサンジにストップを掛けて私は深呼吸をしてデタラメな発音でサンジに愛を伝える。
『わ、たしもすき』
『きづいてくれなくちゃ、だめ』
『ナマエだけのサンジ、なる』
出身者からしたら聞くに堪えない告白だっただろう、みっともなくて格好の一つも付かない。
「嫌になるほど君は優秀だね」
サンジはそう言いながら私の方を振り向く。
「……忘れて欲しい言葉まで訳されちまった」
「自分で全部調べたのよ」
「へ、ロビンちゃんに聞いたわけじゃねェの……?」
瞳をまんまるに見開くサンジににんまりと笑い掛ければ、サンジはその場にしゃがみ込んで息を吐く。
『君には勝てねェよ、本当』
「勝てない、君には?」
「っ、くく、満点だよ」
サンジは私の腕を引き、自身の腕の中に閉じ込める。聞き慣れない言語で綴られる愛してるの言葉に私は格好の付かない愛してるを返すのだった。