短編2
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「釣り合わないね」
この台詞を吐いたのが赤の他人だったら良かったのに現実を突き付けてきたのはショーウィンドーに写った自分自身だ。前日まで可愛いと思っていたワンピースは輝きを失い、ただの布に戻ってしまった。サンジさんは可愛いと大袈裟な程に褒めてくれたが私の抜け切れない幼さがサンジさんと不釣り合いである事を強調してくる。ワインレッドのシャツに黒のスーツ、碧眼を隠してしまう色付きサングラス。長く伸びたウェーブ掛かった金髪を一纏めにして風に揺らすサンジさんは男女関係なく目を引く、無自覚に放出する色香に人は当てられてしまうのだ。そんな人に私が釣り合う筈も無く、日々少しずつ自信が削られて行く。大人になりたい、と膝を抱えてばかりいても結局なにも変わらない。私のスマートフォンの検索履歴は悩みを解消する為の単語で埋まっている、実践出来そうな内容の記事を厳選してはブックマークに入れていく。サンジさんに飽きられてしまったら、サンジさんが不釣り合いな事に気付いてしまったら、という恐怖心が私を突き動かす。
普段、甘いチューハイ一杯で満足してしまうような女が背伸びをしてワインを何杯も飲めばこうなるのは目に見えている、痛む頭を押さえながらベッドに蹲る。サンジさんは水を取りに行くと言って部屋を出て行ったっきり戻って来ない、もう呆れて顔も見たくないという事だろうか。性急な考え方をしている自覚はあるがアルコールが回った頭では碌な想像が出来ない。ベッドサイドに置かれたサンジさんの煙草に手を伸ばす、自棄酒が無理ならこれだと暴走する私を止めたのはペットボトルを持ったサンジさんだった。
「今日は随分とおいたが過ぎねェか」
「……サンジさん」
ベッドに腰掛けたサンジさんは私の手をそのまま引いて自身の膝に座らせると自身の口に薬と水を含ませて私の口に流し込む。二日酔いになりたくねェだろ、と私を見るサンジさんの瞳は普段とは違って何も読み取れない。
「今日の君は君らしくねェ」
「いつもと変わらないわ」
「誰に何を言われた」
サンジさんの両手が私の肩を掴む。きっと、聞き出すまでは離してはくれないのだろう。
「君の舌に合うのは珈琲じゃなくて紅茶、紅茶だって甘くねェと駄目。酒だってあんまり得意じゃねェ、チューハイかサワーかの二択。ワインは専門外」
「サンジさん……?」
「露出が高い服が苦手。今日だって落ち着かねェんだろ?歩きながら下ばっかり見てる、どれだけ化粧で着飾ってもナマエちゃん自身が苦しそうで見てられねェ」
「……どうやったらサンジさんに釣り合う?」
泣くつもりなんてないのに声が震えてしまう。
「おれがおっさんだから年若い君に背伸びをさせちまう」
「ち、違うわ!サンジさんのせいじゃない!」
「おれだって同じだ、君がハマってるアーティストなんて分かんねェし最近の流行りだって年々分からなくなる。それに服装だってほぼスーツだ。しかも、煙草臭ェ……うげ……改めて、最悪だな」
サンジさんはそう言って肩を竦めるが私にとっては欠点では無い。アーティストや流行りの話だってサンジさんは嫌がらずに聞いてくれるし私の好きな物を知ろうとしてくれているその姿勢が嬉しい。
「こんなおれでも好きになってくれてありがとう」
私の背中にサンジさんの長い腕が回る、ポンポンと優しく叩かれる背中にまた涙腺が緩んでしまう。
「……だから、君も君のままでいて?」
「釣り合わないって周りに思われちゃうわよ……?」
「外野は年の差ってだけで好き勝手に言いやがるから困ったもんだね。本当の事なんて何も知らねェ癖に」
君の真の美しさに追い付けねェのはおれの方だよ、とサンジさんの指が私の顎を掬い上げて上を向かせる。
「だから、君は上を向いてなさい」
下も外野も見ねェでいいよ、おれだけ見てて、そう言ってサンジさんの整った顔が近付いてくる。つい、目を閉じれば唇に柔らかなものが当たる。少しだけ苦くて苦手だったキスはいつの間にか自身から求めるまでになった、今だって離れていく唇が切なくてサンジさんのシャツを握って、もっと、と甘い声が出てしまった。
「お姫様の望みのままに」
唇を触れさせて熱を交換する間は年齢の事なんてどうでもよくなる。元々、最初は一つの塊だった気がするからだ。
「……ひとつだったら良かったのに」
「おれもそう思った事はあるよ。でも、愛し合う為におれ達は別の人間として生まれたんじゃねェかなァって今は思ってる」
だから、ふたりで良かったね、とサンジさんは額をコツンと私の額に合わせる。サンジさんの金髪がカーテンのように私を隠す。こうなってしまえば、もう私には上を向く事しか出来なくなるのだ。