短編2
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初対面の印象では最下位だったサンジ、女慣れしたチャラついた態度、女に対してのデレついた声、全てが苦手だと思った。元々、私自身が女扱いされる事を望んでいなかった事も原因の一つではあるが初対面のインパクトのせいか、中々サンジに心を許す事は出来なかった。それなのにサンジは諦めが悪いのか鈍いのか私の周りをチョロチョロしては私の心を良い意味でも悪い意味でも掻き乱した。鬱陶しい、とサンジの体を押し返しても痛くも痒くもありませんといった態度でサンジは私の所に何度も押し掛けてきた。やれ、紅茶だ、お菓子だ、花だと貢物片手にやって来るサンジに私が心を許したのはある理由からだった。
「ナマエちゃん?」
「あなたって食べ方が綺麗なのね」
嫌々ながらに二人っきりで食事をしていた筈なのに私はサンジの手元から目を離せずにいた。海賊らしからぬ風貌をした男だとは思っていたが、サンジのテーブルマナーは流石コックなだけあって美しかった。普段、船の上だと給仕に大忙しのサンジは皆と一緒にテーブルにつく事は無い。だから、知らなかったのだ。サンジの繊細で美しい所作に。
「……えっと、ありがとう?」
普段からツレない態度ばかり取っている私がこんな事を口にするだなんてきっとサンジは思ってもいなかったのだろう。その証拠に隠れていない片目がキョロキョロと落ち着き無く私と皿の上の料理を交互に見つめている。
「見てて気持ちが良いわ」
ただ、それだけの理由だ。目の前の彼が以前、出会い頭に言って来た言葉を借りるなら恋はいつでもハリケーンという事なのだろう、たったそれだけの理由で私はサンジの罠に嵌ったのだ。
「今日は君に似合う貝殻を見つけたんだ」
以前だったら突き返していた筈の贈り物に手を伸ばす、サンジの手のひらの上に乗った小さな桜色の貝殻。
「あなたの小指の爪とソックリね」
「エッ、あ、おれの爪に似てるんじゃ気色悪ィよね……?」
「可愛いけど」
短く切られた爪にそっと触れば、貝殻はこっちだよ、とサンジが貝殻を差し出して来る。
「ふふ、見れば分かるわ」
普段の押せ押せな態度は何処に行ったのか、今日のサンジは少しおかしい。ここに来た時点ではいつも通りのサンジだったが私が貝殻に興味を示した途端、口数が減り、妙にソワソワしている。
「どうかした?」
「噛み締めてる」
君からのデレを、そう言ってサンジは恐る恐るといった様子で私の手に触れる。貝殻と一緒に包まれた手はもうサンジを拒絶したりしない。
「おれ、女慣れなんかしてねェよ。デレデレしちまうのはもう本能っていうか、なんていうか……言い訳のしようも無ェんだけど、だから、君にチャラチャラしてるって嫌われてるのもちゃんと理解してるつもりだったんだけどさ……っ、そんな優しい顔されちゃ、勘違いしちまうよ」
「恋はハリケーンだったの」
「詳しく聞いても?」
「食べ方が綺麗だったから」
自身でも意味が分からない、人のツボというものはこんなにも単純で難しいものだったなんて今まで知らなかった。
「……っ、くく、君の攻略は難しいね」
「嫌になった?」
「食い方が綺麗で良かったって思ってた所だよ」
君をもっと好きになった、そう言って私の可笑しなツボごと私に愛を誓ってくれたサンジ、もう二人のハリケーンは止む事が無いようだ。