短編2
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これは何ですか、と仁王立ちするサンジの前で私はその小さな命達を敵から護るように膝に抱える。ぎゅっと腕に力を入れた私に気付いたのかサンジの特徴的な眉毛が吊り上がる。そして、行儀が悪い舌打ちを一つオマケに寄越して正面にどかりと胡座をかくサンジ。私の膝にお利口に座っているぬいぐるみと似ているのは顔だけだ。だが、今のサンジは下唇を突き出して不満を絵に描いたような顔をしている。不細工になってるわよ、とその下唇を指でトンと軽く押せばサンジの三白眼が私を睨む。
「……何で増えてんの」
「四皇の一味ともなると応援グッズが沢山出て困っちゃうわね」
サンジが求めている答えはきっとそうじゃない。何故、私がこんなにサンジのぬいぐるみを持っているかだろう。一体しか所持していなかった時でもサンジは自身と同じ顔をしたぬいぐるみを酷く嫌った。そんな綿を可愛がるくらいならおれを可愛がってと頬を膨らまして駄々をこねていた姿を思い出す。
「……前は一体だった」
「内緒で増やしたの」
だって、恋人のぬいぐるみよ、と敢えて恋人という言葉を強調したがサンジの機嫌は中々上を向いてはくれない。
「なら、おれ一人でいいじゃん……」
おれへの愛をぬいぐるみになんて分散しないで、と膝を抱え出したサンジは自身の膝に顔を埋める。
「私の愛はサンジに全部あげてるけど」
「うそつき」
酷い言われようだが拗ねたその姿も構って欲しい子供のようで憎めない。それに女性の前でこんな姿を見せるなんて普段のサンジからは想像がつかない。きっと、このサンジを見れるのは私だけの特権だ。
「サンジにもう一つ秘密があるって言ったらどうする?」
「……内容次第では泣いちまうかも」
「この子達にも恋人がいるの」
私はその場から立ち上がると枕元に隠したある物を持ち、ぽかんと固まったままのサンジの目の前にそれを差し出す。
「へ、ま、待って、この愛らしいフォルムと顔ってもしかして君……?」
「ふふ、フォルムは全員一緒じゃないかしら?」
サンジは私と同じ顔をしたぬいぐるみを手のひらにコロンと転がして崇めるようにその両手を上に上げる。存在が尊い、と噛み締めるように話すサンジは自身のぬいぐるみを前にしていた時とはまったく違う反応を見せる。
「私の気持ちが分かったかしら」
「そいつらは可愛くねェ」
でも、君はぬいぐるみになっても愛しいレディのままだ、そう言ってサンジは私のぬいぐるみにキスをする。それにモヤモヤしたのは私の方だ。
「だめよ、そっちの私にキスしちゃ嫌」
「どうやら君はおれの気持ちが分かったみてェだね」
サンジはそう言って意地の悪い笑みを浮かべる、私はそれが少し悔しくてまるで人質にするようにサンジの顔をしたぬいぐるみを握り締めながらサンジにこう言う。
「私もサンジくんとするから」
「君がするのはこっちのサンジくんだよ、レディ」
それにこっちのレディが嫉妬しそうだ、とサンジは私のぬいぐるみを指でするりと撫でる。
「愛らしいナマエちゃんはお前に貸してやるから麗しいナマエちゃんは返せ、クソちび」
サンジはそう言って私の手からぬいぐるみを奪うとベッドの上に二つを仲良く並べた。そして、枕元に私が置いたもう一組のベストカップルを見つける。
「毎回セットで買ってるのかい?」
「……ナミやロビンと買われる事が多いんですって」
確かに船に乗ったのはナミやロビンが先だ、それに戦闘スタイルの影響かあまりサンジと戦闘に出る事は無い。世間からしてみればサンジとお似合いなのはどちらか二人なのだろう、それについてはもう諦めているが実際はこうだとアピールしたかったのかもしれない。
「なら、もっとアピールしなくちゃ駄目だね」
「アピールって?」
「特別なレディは君だけだって世界に言い触らさなくちゃ」
「サンジならやりかねないからパス」
素っ気ない返事とは裏腹にそれを期待している自身がいる。黒足のサンジは私のものだと言えたら楽なのだろう。でも、堂々とサンジの彼女だと言うには自信が足りない。
「他人がどう勘違いしようとおれの瞳は君だけを映してる。ほら、コイツもナマエちゃんのぬいぐるみに色目使ってるだろ?な?」
こっちのアイツも、と必死になって私の隠した不安を取り除こうとしてくれているサンジ。先程まではぬいぐるみを敵対視していたくせに今は協力関係にあるらしい。
「ふふ、色目って」
「だって、コイツ!」
サンジとぬいぐるみの協力関係が破綻してしまう前に私はサンジの腕にぎゅっと抱き着いて、サンジの碧に自身を映した。