短編2
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首や肩、腕に無数に広がる赤い痕。これが恋人からのキスマークだったらどんなに良かっただろうか、と私は赤い痕を爪の先で掻く。ぷっくりと膨らんだ痕が憎たらしくて、それを隠すように薄手のシャツを羽織る。布が擦れるだけで刺激が走り、痒みを倍増させるがあまりにもみっともなくて隠す以外の選択肢が見つからない。せっかくのサンジとのお家デートなのに色気の一つもありゃしない、露出しているのは爪先と首ぐらいだ。
サブスクにある映画をテレビに繋いで二人並んでソファに座る、行儀が悪いが私はクッションを抱いたままソファの上で胡座をかく。普段だったらそんな私の肩に頭を預けて映画そっちのけで私に構ってアピールをするサンジ。だが、今日のサンジは画面をジッと見つめながら黙ったままだ。体調でも悪いのか、と問い掛けても首を横に振ってそれを否定する。
「……この映画、好きだった?」
「まぁ、悪くはないかな」
返事もどこか投げやりで普段のサンジとは真逆のようだ。二人の間には気まずい空気が流れている、久しぶりに会えると浮かれていたのは私だけなのだろうか。
「……会えねェ間さ、誰に独占されてたんだい」
「独占?」
「こういうのは上手く隠さなきゃ駄目だよ、レディ」
そう言ってサンジは私の首筋を撫でる、首の後ろにあるのは憎き蚊の痕だけだ。毛先が触れるだけで痒くて仕方ない。
「そんなに酷い……?首の後ろだから見えなくて……」
どこもかしこも蚊に刺されちゃって嫌になるわ、と抱いていたクッションを叩けば隣から気の抜けたような声が返ってくる。
「へ?か?かってあの蚊?」
「あなたが嫌いな虫の蚊よ」
シャツに隠した肩や腕をサンジに見せる、我ながら蚊に好かれ過ぎている気がすると口を尖らせていればサンジがソファに沈む。突然のごめん寝状態のサンジに私は目を白黒させる。
「すまねェ、一瞬でも君の愛を疑っちまった」
「……キスマークに見えた?」
「悪い、君が肌を隠してるようだったから……」
未だに夏の終わりが見えないくらいに暑い日々が続いているのに、こんなに肌を隠していれば勘違いを起こしても仕方ない。
「見栄えが悪いかなぁと思いまして……」
久しぶりのお家デートなのに虫刺されだらけなんてかっこ悪いじゃない、と苦笑を浮かべる私の虫刺されの痕に口付けるサンジ。
「おれが愛した痕に塗り替えてもいいかい?」
「……これがサンジからのキスマークだったら良かったのにって思ってたの、愛された証ならコレも愛しく思えるでしょ?」
「君の美しい肌を穢す俺を許してくれ、レディ」
リップ音と共に噛み付くように吸われる私の肌、肌の白い部分を消すように赤い華が咲いていく。画面の中よりも濃厚なラブシーンが今始まった。