短編2
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恋人の察しの悪さについて語る友人の愚痴をうんうんと聞きながら自身の恋人の顔を思い浮かべてみる。ふやけた顔をして私の些細な違いを間違い探しのように見つけては褒め言葉を口にするサンジは彼女の恋人とは真逆の人間だ。見た目の変化にも内面の変化にも人一倍敏感なサンジと見た目の変化にも彼女の怒りにも一切気付いていない他所の恋人。どちらがいいかと聞かれたらそこは間違いなく前者だが察しが良すぎるのもまた考えものだ、何事も程々が一番だと言うが本当にそう思う。隠し事も出来なければ、サプライズだって気を遣わせて終わってしまう。見た目の変化だってそうだ、数ミリのアイラインのズレだってきっとバレているし体重の変化なんて一瞬だ。私には随分と荷が重い男だと思いながらも受け入れている私は良い意味で察しが悪いのかもしれない。
「……別れ話だったりする?」
迎えに来たサンジに先程考えていた事を話せば、隣を歩くサンジの足取りが亀のように遅くなった。街灯に照らされた顔は青白く絶望を背負ったような顔をしている。
「へ、何で?」
「荷が重いから別れましょうって話じゃねェの……?」
「荷が重いけど頑張りますって話だったんだけど」
想像力が優れていると言えばいいのかこういう時のサンジは察しが悪い。悪く言えば被害妄想で暴走する癖がある。
「……おれさ、別に察しが良いわけじゃねェよ」
ただ、知らねェ君がいるのが嫌なだけ、そう言ってサンジは繋いでいない方の手をスラックスのポケットに入れる。
「君の全部を把握したい」
「重いし怖い」
「うっ……手厳しい」
隣から聞こえる情けない声をBGMにして私は帰路をゆっくりと進む。私の新しく下ろしたばかりのサンダルに気付いているのかサンジの歩幅は普段よりも一段と小さい。
「……全部知ったら飽きちゃうかもよ?」
「おれが君に?ないね」
食い気味のノーに悪い気はしない。でも、知り尽くした先に未来はあるのだろうか。所詮つまらない女だったな、なんてサンジに言われた日には耐えられる気がしない。
「どうかしら、あなたは浮気性だもの」
「どこかのレディのお陰で今のおれは一途だよ」
感謝するよ、君に、そう言ってサンジは繋いだ手を口元に持っていき私の手の甲に口付けた。
「今後もそうだといいけど」
「なら、隣で見張ってて。おれが他のレディに目移りしねェように」
あ、この顔は浮気なんてまったく考えていない顔だ、と察せたのは察しの良いサンジのお陰だろうか。私は握っていた手に力を入れてサンジを見上げる。見物ね、なんて素直じゃない言葉を吐きながら熱心に私を見つめるサンジと視線を重ねるのだった。