短編2
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彼女と結婚する野郎は大変なんだろうな、と思っていた。手が掛かるわけでも無ければ性格に難があるわけでも無い。それに自身と違ってあっちこっちに余所見をするタイプでも無い。十代の頃の遊びの話は無しだ、今は彼女だけを見つめてる、とサンジは脳内で弁解を繰り返すがきっと彼女には過去も現在も全てお見通しだ。サンジと違って欠点の少ない彼女の唯一の欠点は無自覚に他人(ひと)を引っ掛けてしまう所だろうか。きっと、彼女が困った顔をして俯いていればあちこちから救いの手が伸びてくるだろう。太陽の光を纏うレディに夜空を纏うレディ、あの二人はいつだってサンジの目を盗んで彼女を連れ出してしまう。普段独り占めしてるんだから今日ぐらいは貸しなさい、と言われてしまえばサンジは勿論強く出れない。長っ鼻だってクソマリモだってはたまたクソゴムですら信用出来ない。それ程までに彼女は一味から大切にされてきた。
「ま、相手はおれなんだけど」
タキシードを着て、普段よりもウェーブ掛かった髪を片側だけオールバックにしたサンジ。晴れの日だと言うのにサンジは溜息を溢してまた幸せを逃した。
逃した幸せを追い掛けるようにサンジは自身を呼びに来たナミの後を着いて行く。普段だったら着飾ったナミをこれでもかと褒めるサンジの口は閉ざされたまま、前だけを見つめている。
「……男って狡いわね」
私の可愛い子を独占しちゃうんだもの、とナミはほんの少しの不満を口にする。
「幸せにするから見てて」
「当たり前でしょ」
湿った声にそう返せば、普段よりも覇気が無い強気な返事が返ってきた。部屋の前で一旦止まるとナミはサンジの背中を勢い良く叩き、こう口にした。
「あんたも幸せにならなきゃ許さないから!」
どうやら一味に大切にされていたのは彼女だけじゃないらしい。サンジは頷くと背筋を伸ばして部屋に足を踏み入れる。
「サンジ」
部屋には着飾った今日の主役がいた、安直だが天使というものは本当にいるらしい。サンジは彼女の絞られた腰に手を回して、じっくりと正面の彼女を見つめる。
「今ほど学がねェ事を後悔した事はねェよ」
「ふふ、お利口なくせに」
「綺麗の最上級の表し方が分からねェんだ」
綺麗、可愛い、麗しい、安っぽい言葉を並べた所で彼女に思っている事の半分も伝わらない。この感動や歓喜を言葉にするにはおれの語彙が足りねェ、とサンジが嘆けば彼女はおかしそうに笑う。そして、ドレスの裾を摘んで戯けるようにサンジに問い掛ける。
「ちゃんと綺麗?変じゃない?」
「式に出したくねェぐらいに綺麗だよ」
「大袈裟」
大袈裟なもんか、とサンジは彼女をべた褒めしながら花嫁を攫う手順を考える。本気で実行してやろうとは思わないが見せるには惜しい、全員の目を覆ってやりたいと言えば彼女はまたツボに入ったように豪快な笑みを浮かべるのだろう。
「……本当、おれだけのナマエちゃんでいて」
「もう正式にサンジのものですけど」
そう言ってサンジの首に腕を回す彼女。いつか安心出来る日がサンジに訪れるのか、結婚してからもきっと独り占めする事は叶わない。そんな無自覚人たらしの嫁にサンジは溜息を再度溢す。
「幸せが逃げるわよ」
「もう幸せだからいいんだよ」
この手を掴んだ日からずっとね、とサンジは自身にとって最上級の花嫁を目に焼き付ける。一生、この日の彼女を思い出せるように。