短編2
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この後の展開は分かりきっている、彼女のぷるんとした新鮮な果実のような唇がサンジの唇を攫って問題を有耶無耶にするのだ。彼女の細い腕がネクタイを自らの方に引き、二人の距離がグッと近付く。そして、サンジがお利口にマナーを守って目を閉じれば一瞬で彼女の作戦勝ちに持ち込める。サンジは今回こそは譲らないと闘志を燃やして彼女と自身の顔の隙間に片手を滑り込ました。
「んっ」
色っぽい吐息に目眩がしそうだがサンジは心を鬼にして自身の手の平を退かそうとはしない。彼女は唇を離して直ぐに顔を顰めるとサンジの大きな手を指差す。
「なぁに、これ」
「ガードって言えばいいかな」
「は?」
先程の口論を引き摺っているのか彼女の口調は普段よりも強い、刺々しい空気にサンジはくるんと巻いた眉毛をハの字にして彼女を見つめる。
「……キスで誤魔化さねェで」
「サンジはキスで誤魔化されるのね、いい事を聞いたわ」
彼女はサンジの反応を楽しむかのように小悪魔のような笑みを浮かべる。こういう時に自身の経験の無さが浮き彫りになるとサンジは悔しそうな顔をする。いつだって彼女には勝てない、過保護で心配性のサンジの言葉は先に熱を冷ました彼女がサンジの言い足りない口を塞ぎ、喧嘩を有耶無耶にしてしまう。
「キスは好きでしょ?」
「君とするキスは格別だよ、煙草より中毒性がある」
頭を撫でて、自身の方に彼女を引き寄せるサンジ。
「でも、ただ有耶無耶に誤魔化されるのは寂しいよ」
おれの言葉はいらねェって言われてるみてェ、とサンジは本音をぽつりと溢す。口論だって相手がいないと出来ない、心配だって相手がいてこそだ。なのに、いつも彼女は一方的に終了を言い渡してくる。
「……サンジとまともに喧嘩する自信がないの」
「自信がない?」
「口喧嘩でサンジがもし勢い余って私に嫌いなんて言った日には泣くわよ、私」
だから、泣く前にキスして安心したいの、そう言って彼女はサンジの胸板に寄り掛かる。
「君を嫌うおれなんて想像出来るかい?」
「……出来ないから怖いの」
「おれ自身も想像がつかねェ」
だって、毎秒君への好きが貯まっていく、とサンジは彼女の旋毛に唇を寄せる。
「……誤魔化した事は謝るわ。でも、あなたの言葉を聞いていないわけじゃない。直せてる自信は無いけど、これでも反省はしてるのよ?」
普段あまり顔色を変えない彼女がどこか必死な様子で謝罪を口にする。そんな状況を想像していなかったサンジは覗いている片目をぱちぱちと動かしながら彼女の顔を見つめる。
「らしくないって思ってるんでしょ」
「いや、ただ、ちょっと驚いちまっただけ……」
「やっぱり思ってるじゃない」
一方的な愛に慣れていた、彼女にだって自身と同じ分だけの愛を返して欲しいとは思っていない。たまに少しだけ愛を口にしてくれたらサンジはそれで十分だった。
「なぁ、ナマエちゃんキスしたい」
有耶無耶にする為ではなく、これは仲直りのキスだ。仲直りと言える程、喧嘩していたつもりも無いが今はただ彼女に触れていたかった。彼女の返事を待たずに奪った唇は安心感を与えられるような優しい口付けではない。ただ、今すぐにこの愛の温度を知りたかった。