短編2
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女という生き物を崇拝しながらもサンジは世の女の一欠片しか知らなかった。店に来る女達は年齢に関係無く近付けば人工的な甘い匂いがした。ギラギラとしたラメが眩しいアイシャドウ、バサバサに上がった睫毛の上には料理に刺すピックが何本も乗せられそうだ。唇はぽてっとした厚みを出す為に少しだけオーバーに紅を乗せ、その口を開けば甲高い声を鳴らす。自身の魅力を分かりきった美人達はこぞって露出の高いドレスに身を包み、ありがとう、ウェイターさん、とサンジを上目遣いで見上げるのだ。
他人の容姿、それもレディの容姿に触れるのは御法度だとサンジも理解しているが今までの人生で初めて出会ったのだ。
「君みたいなレディは初めてだ」
手摺に肘をついて少し離れた場所にいる彼女を見つめる、風でふわりと香ってくるのは彼女の柔らかなシャンプーの香り。人工的な甘い匂いだって確かに嫌いではない、レディが纏う匂いならサンジは何だって許せる。付け過ぎた香水だって愛らしいだけだ。サンジの熱い視線に気付いた彼女はサンジの方を振り向き、長い髪を揺らす。柔らかな彼女の香りの上に重なる自身の煙草の匂いが邪魔でサンジは火を付けたばかりの煙草を携帯灰皿に押し付ける。
「サンジ」
顔の横で照れ臭そうにこちらに手を振る彼女に心臓がグッと掴まれる、上目遣いも狙ったアピールも無い。なのに、サンジは落ち着き無く彼女と同じように手を振り返す事しか出来ない程に動揺している。初めてレディとベッドに入った時よりも今の方が断然緊張していると言ったら昔のレディに失礼だ、と脳内で自身を蹴り飛ばすサンジ。だが、そんなサンジの動揺に気付いていない彼女はその場から移動しサンジの隣に並ぶ。
「もう少しで島ですって」
サンジは吃りながらも無難な相槌を返す、レディの前ではペラペラと動く自身の口とは思えない程に上手い返事を返せない。そんなサンジの額に手を伸ばした彼女はうーんと悩ましい声を上げる。
「へ、エッ、ナマエちゃん!?」
「熱は無いみたいね」
「おれ?元気だよ……?」
「なら、いいけど」
無理しちゃ駄目よ、と彼女は控えめに化粧を施した顔を優しく綻ばせる。その顔にはギラギラとしたラメは似合わない、料理用のピックは乗らないが上を向いた睫毛。小さな唇は桜色をして、その口を開けば高くも低くもない心地の良い声がサンジの耳に届く。
「……っ、あのさ、ナマエちゃん」
「なぁに」
「島に下りたら一緒に回ったりデキマスカ」
「ふふ、何で片言なの」
なんとなく、と自身の金髪をくしゃりと掻いてサンジは下手な笑みを溢す。彼女の返答が怖くて、つい視線を革靴の爪先に向けてしまうサンジ。
「これってデートの誘い?それとも荷物持ち?」
「……き、君とデートしたい」
勿論、ナマエちゃんが嫌なら君の荷物持ちでもいい、と彼女のシャツの袖を迷子の幼子のように握るサンジ。彼女はサンジの手をシャツから離すと自身の手を代わりに絡めた。
「楽しみにしてるね、デート」
サンジの腕に寄り掛かる彼女はサンジの人生に突然現れたサンジ限定兵器だと言ったら彼女は笑うだろうか。その柔らかな香り、ナチュラルメイクに最小限の露出、そして、その狡い笑みでサンジの心臓は煩いくらいに悲鳴を上げるのだった。