短編2
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「サンジくん、サンジくん」
お互いの肌を擦り合わせて今から良い雰囲気と言ったタイミングで私は場違いな元気な声を上げる。しっとりとした空気の中、私の肌を愛撫していたサンジの手がゆっくりと遠ざかる。その代わりにサンジの両目が続きを促すように私を見る。
「なぁに、ナマエちゃん」
空気を壊してもサンジは顔を顰めたり無理に事に及んだりはしない。一方的な行為はセックスとは呼ばねェ、と以前に言っていた通りサンジは私の意思を第一に尊重してくれている。
「今日はちょっと加減して欲しいです」
「……もしかして、おれって毎回しつこい?」
ズーンと効果音が聞こえるような影を背負うサンジ。私はサンジの言葉を否定するように首を左右に振る。そして、サンジの中途半端に脱げたシャツを掴み、もう一つのお願い事を口にする。
「ピロトークがしてみたいの」
「……へ、ピロトーク?」
「いつも気を失っちゃってサンジとお話出来ないから」
ちょっと憧れてるの、と内緒話をするようにサンジに告げればベッドの上でサンジが悶えるようにゴロゴロと転がった。手足を丸めて大の大人が転がる姿は中々に見応えがある、先程までのしっとりした空気は台無しだがこれはこれで私達らしい。全ての言葉に濁点が付いたようなサンジの叫びに私はそんな大それたお願いをしたかと不安を覚えるがサンジのこれは発作だ、発作の原因は私を溺愛し過ぎているサンジにしか分からない。
「……っ、加減出来る気がしねェ」
「サンジはピロトークしたくない?」
「一晩中したいです」
急にキリッとした顔をして私を真っ直ぐに見つめてくるサンジ、その切り替えの速さについ笑ってしまう。
「なら、加減してくれなくちゃ嫌よ。ダーリン」
「……善処させてもらうよ、ハニー」
蜂蜜のように甘いサンジの声が私の鼓膜をなぞる、先程まで愛撫されていた体は少しの刺激で簡単に震えてしまう。サンジの長い指が私の肌に触れる、再度訪れたしっとりとした空気に私達は身を任せるのだった。
――――
サンジの頑張りのお陰で少なからず普段のように意識を失う事は無かった、少しだけ声は枯れているが話せない程では無い。ベッドサイドに置いてあったペットボトルの水を口に含むとサンジは私の口に流し込む。ごくり、と私が飲んだのを確認すると私の横にゴロンと横になるサンジ。そして私の頭の下に腕を差し込み、こちらの顔を愛おしげに見つめてくる。
「ピロトークの時間だよ、レディ」
改めて言われると少しだけ気恥ずかしい。それに普段は気を失っているせいかピロトークと言われても話題が出て来ない。カップル、寝る前、ピロトーク、恋バナとおかしな方程式が出来上がった私の茹で上がった脳内。
「お、おい、サンジは好きな奴とかいんのかよ」
そのままの勢いで口に出せば、目の前のサンジの表情がぽかんとしたものに変わる。そして次第に堪らないといった様子で枕に顔を埋めて大袈裟な程、肩を揺らす。
「っ、ぷ、はは、修学旅行かよ」
「……だ、だって、寝る前の恋バナってこんな感じでしょ!」
「ピロトークは恋バナじゃねェよ、ナマエちゃん」
笑いを噛み殺すのに失敗したサンジがケタケタと笑いながら、私の馬鹿な話題に乗ってくる。
「今さっきまでナニしてたか覚えてるかい?レディ」
「……えっちを少々」
「なら、答えは簡単だ」
おれが好きなのはレディ、君だよ、そう言ってサンジは空いている手で私の輪郭をなぞる。
「ピロトークっぽい」
「くく、お気に召したかい?」
長い前髪の隙間からサンジの垂れ目が覗く、柔らかく目尻を下げたその顔は確かに恋人を見つめている表情だ。サンジの問いに頷いた私は手を伸ばしてサンジの肉の少ない頬に触れる。
「私の好きな人はね、話さなくても分かるかな」
「あぁ、勿論。だが、二択で迷ってる」
目の前で揺れるピースサインに首を傾げて、二択?と問い掛ければサンジは人差し指をしまう。
「強くてカッコよくてそれはもう素敵なサンジくん」
そう言ってサンジは次に中指をしまう。
「甘えたで寂しがり屋でかわいい君のサンジくん」
君はどっちのおれが好き?なんて真剣な顔で聞いてくるサンジ。二択のようで一択のそれはどこかくすぐったくて、つい口元が緩んでしまう。
「どっちもって答えは欲張り?」
「百点満点だよ、レディ。君は優秀だ」
鼻先にサンジの唇が触れる、つい勢いで目を閉じてしまったが幸せ過ぎておかしな顔をしていないだろうか。サンジといると一分一秒が優しいものになる、心を擦り減らすような恋愛ではなく自身の心が豊かになったように感じる恋愛は初めてだ。
「どっちも君のおれだ」
鼻先から離れた唇とピロトークに相応しい甘く枯れた低音。目を開けたそこには私の一番大好きなサンジの表情があった。