短編2
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我ながら褒められた癖では無いと思う、ガタガタになった深爪、爪と皮膚の間からは血が滲んでいる。これでは口に出さなくても噛んだと宣言しているようなものだ。
「……また、やっちゃった」
無意識の癖はこうやって私の爪をボロボロにする、このところ暑い日が続いているせいか予防の為のグローブを装着していなかったのが失敗だった。噛んだ後は勿論反省してもう二度と噛んだりしないと決意するのだが、その決意は無意識に破られ、ある一定の長さになった途端にボロボロにしてしまう。
「また、随分派手にやったね」
「サンジ……」
綺麗に手入れを施されたサンジの爪の前では自身の爪のみすぼらしさが浮き彫りになる。つい、私はお尻の下に爪を隠し、サンジの視線から逃げようとする。
「見せて、ナマエちゃん」
「……嫌よ」
汚いから嫌、と首を横に振って拒否すればサンジの手がポンと頭に乗る。その手に釣られるように上を向けば、柔らかな碧を細めたサンジと視線が重なる。
「完璧じゃねェ君だって綺麗だ。でも、君自身が傷付いてちゃ意味がねェ」
おずおずと手を差し出せばサンジは礼を言い、優しい手付きで私のボロボロの爪に触れた。礼を言うのはこっちなのにおかしな人だ。
「ネイルポリッシュを塗っておくとね、予防になるんだって」
「……持ってないわ、こんな爪で買いに行く自信がないもの」
きっと笑われてしまう、と後ろ向きになる私の手の上に何かが触れた。
「こ、これって」
「君をおれ色に染めようかと思ってさ」
ジャーンとふざけた声を出しながらサンジは器用に包装を解いて中から瓶を数本取り出す。光に反射してキラキラと輝く海のようなブルー、そして私の道を照らしてくれる月のようなゴールド。そしてケア用の透明の瓶が数本。
「どう、染まってくれる?」
「でも、また噛んだら……」
サンジは私の手の平に瓶を並べながらこう口にする。
「君がキスするのは爪じゃなくておれだよ、レディ」
おれにだったら噛み付くのも大歓迎、それ以上だって勿論大歓迎だよ、と場違いな笑みを浮かべるサンジ。後ろ向きになりそうな私の手を引き、冗談か本音か分からない言葉で笑わせてくれるこの人の色に染まればこの悪い癖も落ち着くのだろうか。
「変態」
「っ、くく、酷ェの」
「……サンジが私に塗って」
「勿論」
サンジは私の血の滲んだ爪に唇を寄せ、こう口にするのだった。完璧じゃねェ君も愛してあげて、と。