短編2
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長い戦いに終止符が打たれ、宴だ、祭りだ、と賑わいを見せるワノ国で皆の輪から離れて不貞腐れている私に気付く人間は厄介な事に不貞腐れている原因であるサンジだけだ。ワノ国の装いである着流しに身を包んでこちらに近付いてくるサンジは黙っていれば確実に女の子の一人や二人簡単に引っ掛けられる筈だ。城内で可愛らしい女の子達を守っていた時と同じように私なんかに構っていないで女の子達を侍らしてお酌でもしてもらえばいいのだ。
「こんな所に一人でいたら悪い海賊に捕まっちまうよ、レディ」
背後に座り込んだサンジは私のお腹に腕を回す、私を捕まえる悪い海賊なんて一人しか知らない。その海賊は私の髪を固定している簪を抜き、あろう事か首筋に吸い付いた。
「ちょっと……!」
「お、綺麗についた」
「もう、人の話聞いてる!?」
眉を吊り上げて後ろを振り返れば、サンジの指が私の右頬を突く。話を聞いてくれねェのは君の方だろ、ナマエちゃん、と言われてしまえば途端に私の分が悪くなる。
「……割って入れる雰囲気じゃなかったわ」
ワインレッドのスーツを身に纏い、メロリンとハートを飛ばす事も鼻血を吹き出す事もなく、女の子達のヒーローになっていたサンジ。落ちて来る瓦礫を蹴り、女の子の頭を抱き締めるように庇ってあの炎の中を進んだと噂で聞いた。
「あなたを好きになった女の子がいたら嫌だもの」
「……もしかして、嫉妬かい?」
「そうよ、嫉妬よ……っ、あなたが格好良い所を安売りなんかするから悪いのよ」
八つ当たりの次は自ら墓穴を掘り、もう取り返しがつかない状況だ。それもこれもサンジが格好良いのが悪い。簪が外れて野放しになった長い髪を前に持っていき、顔を埋める。暫くはこの熱い顔を上げるわけにはいかない。
後ろから特大の溜息が聞こえる、犯人は私を抱えたままのサンジ。溜息を吐いたサンジは私の肩に顎を乗せて、ナマエちゅわん、と蕩けたような声を出してマーキングをするように金髪を擦り付けてくる。
「おれって嫉妬しちまうくらい格好良い?」
「知らない」
「っ、くく、知ってるくせに」
だって、君の前ではいつもカッコつけてるもん、おれ、そう言ってサンジは私の顔を覗き込もうとする。
「今も必死でカッコつけてる」
「余裕のくせに」
「隠すのが上手ェだけだよ」
チラリと隙間から覗いたサンジの顔は普段と変わらない余裕の笑みを浮かべている。それが悔しくてサンジの薄い頬を自身の方に引っ張れば、サンジはへにゃりと顔を緩める。
「いひゃい」
無言でサンジの頬を粘土のようにこねくり回す私の手の上に筋張った大きな手が乗せられる。
「君好みになったかい?」
「まだ」
サンジはおかしそうに笑うと私の頬に同じように触れる、私のように雑な手付きではないが大事なものに触れるような手付きが二重の意味で擽ったい。
「君は理想が高ェから大変だ」
「サンジが高くしたのよ」
「だって、そうすれば余所見出来ねェだろ?」
確信的な笑みを浮かべたまま、サンジは私を見つめる。
「サンジと違って余所見なんてしてないわ」
「おれを変えたのは君だよ、レディ」
君しか見えなくなっちまった責任を取って、と私を引き寄せた手を拒否する事すら出来ずに私は悪い海賊に捕まってしまうのだった。