短編2
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「ライオンはね、獲物を仕留める時に食べたい、殺したいとは思わないらしいわよ」
「へ」
「可愛い、可愛いと思っている間にうっかり食べちゃうらしいの。ふふ、サンジはどうかしらね」
サンジから隠れている私にロビンはそう耳打ちする、博識なロビンの事だからその知識はきっと正確なものだ。
「……わ、私、サンジに食べられちゃうの?」
確かに毎日、私はサンジに追い掛け回されている。私の大袈裟なリアクションが面白いのかサンジは言葉巧みに私を誘い込んでは自身の長い腕に私を閉じ込める。そして、すぐに真っ赤になってしまう頬を押さえながらキョロキョロと視線を彷徨わせる私にサンジは決まって可愛いと口にする。
「それはサンジ次第かしら」
人間の肉は不味いと言うがサンジの手に掛かれば高級肉に変身出来る可能性だってある。もしかして、今までの可愛いは非常食的な意味の可愛いだった?と考えたところで体がぶるりと震えた。サンジの事は大好きだが食べられるのは怖い、小心者の私には荷が重過ぎる。
その日から徹底的にサンジから逃げている、不自然にサンジの視界から消える私にサンジがどういう顔をしていたか私は気付いていなかった。今だって顔を見た瞬間に逃げてしまった、伸ばされたサンジの腕が不自然に宙で止まるのを横目に私は隠れ場所を探す為に猫のように身を小さくして船の中を移動する。
「(……失礼な事しちゃってるよね)」
サンジはいつも優しい、ナミやロビンのように整った外見をしているわけでも優れているわけでもない私を一級品の女のように扱ってくれる。そんなサンジの態度にまんまとその気になった私はサンジに密かに好意を抱いている、今だって本当はサンジの腕に捕まりたい。でも、食べられてしまっては今までのようにサンジを密かに想う事も出来なくなる、それだけはどうしても嫌だ。
「捕まえた」
「ひぇ」
首にサンジの長い腕が回り、後ろにグッと引き寄せられる。力加減された腕は首輪には不向きだ、これでは簡単に逃げ出せてしまう。それでも私が逃げないのはサンジの声が切なく私の名前を何度も口にするからだ。
「……ナマエちゃん」
「ナマエちゃん」
「……何もしないので逃げないでクダサイ」
サンジの金髪が私の肩に掛かる、擽ったさに身を捩ればサンジは私が逃げ出すと勘違いしたのか回していた腕にぎゅっと力を入れた。
「頼むから置いて行かねェで」
これではライオンではなく、甘えん坊な子犬だ。クゥン、と鼻を鳴らす代わりに私の名前を甘く呼ぶ声。
「……サンジは私を食べない?」
「へ」
「あの、非常食にしたりしない……?」
サンジは戸惑った表情のまま私に説明を求める、私はロビンとの会話を思い出しながら一から説明していくが目の前のサンジの表情が真っ赤に染まっていくのが気になって説明に集中出来ない。
「……あの、怒った?」
「違くて、いや、違ェわけじゃなくて、そっちじゃねェっていうか……」
首を傾げる私の腰に腕を回したまま、サンジは顔を赤くしたり唸ってみたり普段の私よりもオーバーなリアクションをしてみせる。
「サンジ?」
気付いた時にはサンジに唇を奪われていた、はむりと下唇を食べられたまま何度もくっつく二人の唇。
「おれの食いてェはこういう事だよ、ナマエちゃん」
「それって、」
「可愛いって追い掛け回すのは君に恋してるから」
頬が段々と熱を上げる、大袈裟なリアクションすら出来ずに私は正面に立つサンジを見上げる事しか出来ない。
「……何もしねェって言ったけどさ、君が可愛くて食っちまった」
謝罪を口にしようとしたサンジの口を両手で押さえる。ん、ん、とくぐもったサンジの声に重なった小心者の私らしくない大胆な告白。
「た、食べていいよ」
サンジになら食べられたい、と獲物の私はライオンの檻に自ら入って行く。その長い腕で捕まえて、可愛いと歯を立てて欲しい。