短編2
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「かわいい……」
棚に陳列された同じ顔のぬいぐるみ、悪戯っぽく歯を出してトレードマークのぐるぐるの眉毛は綺麗に上を向いてサンジの顔の可愛さが全面が出ている、ちょっとブスなのも愛嬌があって良い。並んでいる子を左から順に見つめていれば一際、目が合う子がいた。返事が返ってこないのは承知でついぬいぐるみに話し掛けてしまう。
「うちの船に来ない?」
そう言って私はぬいぐるみを大切に抱えてレジに向かう。そして、私達の非公式グッズが売られているこの店がナミにバレない事を祈った。
恋人と同じ顔をした約十一cmのいのち、サンジとは似ても似つかない短い手足をツンツンと突きながら私は顔を緩ませる。
「……面白くねェ」
それに不満を持ったのが恋人であるサンジだ、ぬいぐるみを指で擽るように転がす私の背中を射抜くような瞳で見つめている。チラリと見たその表情につい苦笑が溢れる、無意識に尖ったアヒルのような唇はサンジの嫉妬の表れだ。あんな綿、それにおれはあんなにパンパンじゃねェし手足だって短くねェ、とぬいぐるみに対抗するように文句を繰り返すサンジ。
「サンジくん」
この呼び方はぬいぐるみ専用の呼び方だ、途中まで自らが呼ばれた気になっていたサンジはショックでその場に崩れ落ちる。ジトっとしたサンジの濡れた碧眼とぬいぐるみのぱっちり開いた黒目が重なろうとしたタイミングで私の悪戯心に火がついた。手に持ったぬいぐるみと向かい合わせになって、ちゅーとふざけた声を出す。ぬいぐるみとキスしたらサンジはどんな反応をするのだろうかという好奇心はその場から勢い良く立ち上がり、長い脚をフル活用して一歩で近付いてきたサンジの手によって阻止された。自身の片手よりも随分と小さなぬいぐるみの頭を乱暴に掴んで私から離すサンジ。
「乱暴にしちゃ駄目よ」
私の主張を無視してサンジは私の横に胡座をかいて座る。そして、ギチっとサンジくんの頭を掴んだまま目を瞑るサンジ。
「ん」
「?」
「ほら」
「ほら、じゃなくて」
サンジは目を開けるとぬいぐるみのようなキョトンとした顔で私を見つめる。
「ちゅーしねェの?」
「私はサンジくんとする気だったんだけど」
「こっちのサンジくんの方がちゅーもべろちゅーも上手だよ、レディ」
綿じゃくっつけて終いだよ、とサンジは自身のスラックスのポケットに雑にぬいぐるみをしまい込む。私はポケットからの救出を試みるが私が手を出せば出す程、目の前のサンジの顔がどんどん不貞腐れた子供のような顔になっていく。
「ふふ、何て顔してるのよ」
「……サンジくん、サンジくん、口を開けばサンジくん。新入りに恋人を寝取られた気分だよ」
「一緒には寝てるけどまだ抱かれたりはしてないわ」
サンジに体を寄せて整えられた顎髭を撫でる、ぬいぐるみを撫でる時と違って反応を試すような私の手付きにサンジは喉を鳴らす。そして、段々と下に下りていく手はサンジの期待を裏切るようにある一点に止まる。
「いただき♡」
隙を突いて、ポケットから救出したぬいぐるみにキスをすればサンジは眉を吊り上げてぬいぐるみの額を指で弾いた。
「食っちまうぞ」
「っ、もう、笑わせないで」
百八十cmの恋人は十一cmのぬいぐるみを掴み、童話に出てくる狼のように大きな口を開く。食べないで、と茶化す私の手を引いてサンジはぬいぐるみではなく私の唇に歯を立てるのだった。