短編2
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同じ身長だった筈なのに大人に近付いた今では頭二つ分の身長差がついた、追い掛けるようにヒールの高いサンダルに足を通せば大きな右手が私を支えてくれるようになった。変わらないのは歩幅だけだ、グングンと身長が伸びてもサンジは私の歩幅に合わせてその長い足を動かす。自身の記憶の中にいるサンジはいつも泣いていた、犬に吠えられても石に躓いて転んでもその碧眼から海のような滴を溢す。なのに、今はどうだろうか。女好きのどうしようもなさには目を瞑るがそれ以外は完璧に近い。同じように生きてきた筈なのにサンジの方が何周も先にいるようで私は時々その腕を離したくなる、サンジを振り回す自身が酷く幼く見えて恥ずかしくなるのだ。今だって暑い中、私を日陰に残して飲み物を買いに行ってくれているサンジ。ラフなシャツを肘辺りまで捲り、時々、列から手を振ってくる姿に幼馴染以上の感情が沸きそうになる。さりげないサンジの優しさに最近は心臓が煩くなる事が増えた、これが恋ではないのならもう何が恋だか分からない。
「サンジはいいの」
「ん?」
「彼女じゃなくて私とばっかりいて」
サンジはストローから口を離して、あー、と気まずげに視線を逸らすと彼女と数週間前に別れたと言う。理由は聞かなくても分かる、きっと私との関係を疑われたのだろう。毎回サンジの新しい恋の芽を摘んでしまう自身という存在が嫌になる。そして、その度にホッとしている自身の浅ましさにもだ。
「……彼女以外に優しくしちゃ駄目だよ」
「なら、君にも駄目って事?」
「溺愛されてる幼馴染からただの幼馴染に戻りまーす」
茶化すようにそう口にすると私は頭の横で敬礼の真似事をする、ふざけていないと余計な事を口走ってしまいそうだからだ。
「なら、彼女なんて一生いらねェかなァ」
サンジは私の空いた手をテーブルの上でぎゅっと握ると穏やかな表情でこちらを見る。恋はハリケーンだと言っていた口からはサンジの台詞とは思えない発言が出る。
「おれが君に優しくするのはレディだからでも幼馴染だからでも無ェよ。ただ、君の心を待ってる」
サンジは時々詩人のような事を口にする、私の足りない頭では簡単に答えに辿り着けないサンジの言葉が私を突き放す。
「……心ってどういう事」
「君の心がおれを欲しがるのを待ってる」
恋心の出番をね、そう言ってサンジは繋いだ手にキスをする。周りに人だっている筈なのに今の私はサンジの言葉を整理するので忙しくて正面に座るサンジをただ見つめる事しか出来ない。
「彼女なんて最初からいねェよ、ただ君に妬いて欲しかっただけ」
「ホッとしたの。サンジと彼女が別れたって聞いて私、安心しちゃった……」
「それはどっちの君だい、幼馴染?それとも、」
先を歩くサンジは自分自身の気持ちにも私の気持ちにも気付いていたのだろう。私はサンジの手を引き、サンジの言葉の続きを自身の口から告げる。
「サンジの事が好きな私」
「あー、レディ……これって、夢じゃねェよな?」
「さっきまでの余裕はどうしたの」
「男はいつでもカッコつけなんだよ、好きな子の前ではね」
そんな台詞を言いながらチグハグな表情で私を見つめるサンジは私と同じ歩幅で幼馴染の枠を飛び出した。