短編2
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得意じゃない料理を好きになったのはサンジとの共同作業のお陰だ。隣に並んで肩がぶつかる位置でサンジの手元を見ながら同じように動く。だが、サンジと同じ作業をしている筈なのに私の手元にあるハンバーグのタネは歪な形をしている。丸になりきれないアメーバのような形に肩を落としながらサンジを見上げる。サンジ、と泣きそうな顔で助けを求めればサンジは私の後ろに立ってタネに手を伸ばす。手袋をした手がアメーバをどんどん可愛らしいハート型にしていく、私の手の大きさに合わせた小さなサイズのハート。
「かわいい」
「君の作品も可愛らしかったよ」
サンジはどれだけ私が焦がしても形を崩しても怒りはしない。料理に不正解は無いらしい、どんな料理でも気持ちが大事だという。それに私が作ればそれだけでメーター越えの高得点を叩き出してしまうらしい。
「私もサンジにハート作りたい」
後ろから濁点がついたような「ん」が飛んでくる。潰れた蛙のような声に私はくすくすと笑みをこぼしながらボールに入ったタネに手を伸ばし、手のひらの上でペタペタと形を整えていく。
「……食っちまうのが勿体無ェ」
永久保存したい、と真剣な声でとんでもない事を言い出したサンジ。こんな歪なハートならいくらでも作ってあげるのに馬鹿な人だ、サンジが強請れば私は割と何でもする。直接言った事は無いがこれでもベタぼれというやつなのだ。
「何か今、君がスゲー可愛いこと考えてる気がする」
「ふふ、どうかしら」
「ちょっとだけ聞かせて」
サンジに手のひらのハートが見えるように少しだけ体を横に傾けて先程考えていた事を内緒話をするような音量で口にした。
「ベタぼれ」
だから、いくらでも作ってあげる、とサンジの方をチラっと見れば抱き締めたい気持ちと汚れた手袋の間で葛藤しているサンジの落ち着き無い姿が映る。サンジが作ったハートの横に自身の歪なハートを並べて手袋越しにサンジの指先をぎゅっと握る。
「後でね」
「飯の後が楽しみだね」
サンジと料理をしていると横道に逸れそうになる、恋人同士の甘い空気に飲まれてしまうのもあるが料理をしているサンジは純粋に格好いいのだ。繊細な指先、楽しげな子供のような瞳、今だって蕩けそうな表情で私を見つめながらも作業は進んでいる。食材と私の相手をしながらテキパキと動くサンジ。フライパンの上で二人の手のひらサイズのハートが音を立てる。
「おれの心臓みてェ」
「焼けちゃってるけど」
「恋の炎は毎日燃え上がってるよ」
頭の回転が早いのか、口が上手いのか、サンジはそう言ってハートをひっくり返す。恋の炎とは違って強火ではない火で綺麗に焼き色をつけていくサンジ。
「皿、取ってもらってもいいかい?」
「えぇ」
船には二人専用のお皿がある、こうやって二人でキッチンに並んだ日だけ使える特別なお皿。島に下りた際に買ったペアのお皿が入った食器棚の一部はサンジが鍵を掛けている。野郎共に使われたらオロしちまう、と言っていただけあって随分と頑丈な鍵だ。
「ダーリン、余所見は駄目よ」
「ハニーも可愛さをしまってくれ」
まるで新婚のような会話をしながらお互いの皿を交換して盛り付けていく、サンジが担当している私の皿は今からでもレストランに提供出来そうだ。逆に私が担当したサンジの皿は悪くはないが手放しで褒める程でもない微妙な仕上がり。
「センスが無くて悪いわね」
「んーん、おれからしたらこれが一番だよ」
今日も沢山の愛情をありがとう、とサンジは私からお皿を受け取って旋毛にキスをする。
「サンジもありがとう」
同じように私もお皿を受け取って屈んだサンジの頬にキスをする。だが、顔を横にずらしたサンジの唇が私の唇を攫っていく。
「……冷める前に食えって言うコックさんとは別人ね」
料理も君も味わいたい気分なんだ、とサンジは私の腰に腕を回してキスのおかわりをする。皿の上のハートが冷めきってしまう前にこの腕を抜け出す方法を考えてみるがどれもピンと来ず、結局この男に流されてしまうのだった。