短編2
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長らくお一人様でいると段々と男の必要性を感じなくなる、若い頃はそれなりに遊んでいたが今は仕事で自身の経験値を上げる方が満足感が高い。それに一人で立てない程、弱くも無い。
「あなたの弱さに触れてェな」
「残念、ありません」
「本当に?」
この後輩はどうやら私に気があるらしい、今も試すように私の瞳を覗き込みながらグラスを傾けてる。近い、とその顔を押し返してもめげずに距離を詰めてくる。
「しつこい男は?」
「あなたの好みじゃねェ」
「それに年下は?」
「っ、くく、論外」
何度目かのやりとりにサンジくんはくすくすとおかしそうに笑う。だが、諦める素振りなんて一切見せずにその上手い口で私を言いくるめようとする。
「年齢なんてあと十年もすればどうでもよくなるよ」
年齢なんて記号みたいなもんさ、と煙草に火を付けて煙を吐き出すその顔は実年齢よりも大人に見える。黙っていたら顔は悪くないとは思う、喋ると途端に苦手な部類に入ると言ったらこの男はきっと私の前で一言も言葉を発さなくなりそうだ。
「どうだか」
サンジくんの手から煙草を奪い、口に咥える。合うのは煙草の趣味と通っている居酒屋ぐらいだ。
「間接キス」
頬杖をつき、こちらに蕩けそうな視線を向けてくる。私の体はそろそろサンジくんのせいで穴が開きそうだ。
「見過ぎ」
「正面に美しいあなたがいるのに他に目移りなんか出来ねェよ」
「その口説き文句で落ちた女の子の人数は?」
人差し指を立てると一人だけだと言う。ほら、やっぱり、と呆れた表情を作る私をその人差し指で指すサンジくん。
「ナマエさんがその一人だけになってよ」
「……は」
「おれは本気だよ」
あなたがおれに落ちてくるのをずっと待ってる、と静かな声が個室に響いた。普段の巫山戯た印象とは随分違う声色に私は年甲斐もなく固まってしまう、懐いていた犬が途端に狼に姿を変えたような驚きがある。
「駄目?」
「……年下に興味は無いもの」
「なら、はじめてナマエさんに興味を持ってもらえる年下を目指そうかな」
何を言ってもサンジくんは諦めようとはしない、それどころか前向きな言葉で押してくる始末だ。そして、厄介なのは悪くないなと傾き始めた自分自身の心だ。恋というよりも久しぶりに面白い男に出会ってしまったという高揚感。
「少しは揺らいでくれた?」
「……恋にはならないかもよ」
「それを恋に変えるのがおれの仕事だよ」
会社員ではなくホストにでもなれば良かったんじゃない?と言いたくなるような返しに私はつい笑ってしまう。
「馬鹿、ほんと馬鹿」
「あれ?もしかして貶されてる?」
「褒めてるの」
私は灰皿に煙草を押し付けると片手をサンジくんに差し出す。首を傾げたまま私の右手を凝視しているサンジくんの片手をぐいっと引っ張り握手をする。
「ナマエ、さん?」
「最初はお試しね、恋にならなかったらそこで終了」
この時の私はサンジくんを見誤っていた、そして自身が絆される日が来る事もグズグズに甘やかされて駄目な大人になる事も知らずに呑気に大きいサンジくんの手をぎゅっと握って余裕の笑みをこぼすのだった。