短編2
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へっぴり腰で怖い、怖いとサンジの両手に掴まりながら氷の上を移動する。態々、お金を払って不安定な足場の上を滑る意味が分からないとジト目でサンジを見上げる私の手を引きながらサンジは優雅に私をエスコートする。私の無様な滑りとは違って背筋を伸ばし前を滑るサンジの姿は美しい、私がベンチでスケート靴に足を通している際に見えたサンジの滑りはまるでプロのようだった。長い脚は敵を薙ぎ払う時と同じように靭やかに氷の上を舞う、その姿は人ならずもののように美しかった。白鳥が泉から羽ばたくように腕を広げ、クルクルとセンターで華麗なスピンを披露するサンジに私の方が目をハートにしてしまいそうだ。
「大丈夫、下を向かないで」
おれの顔を見て、と私の意識を不安定な足場から自身に向けようと声を掛けてくれるサンジ。
「でも、滑るもの……!」
「それじゃ、レディがはじめて高いヒールに挑戦した日を思い出そうか」
何の為に、と首を傾げる私は一歩進む度におっかなびっくり片足を動かす。気付くと視線は下がり、引っかき傷が沢山ついた氷のリンクを見つめている。
「最初はさ、慣れなかったろ?あんな細いヒールで全体重を支えるなんて野郎じゃ無理だ。なのに、レディはあんな華奢な靴で走り回ったり戦ったり見事なもんだよ」
スケートも同じでさ、慣れとちょっとの勇気があれば大丈夫だよ、とサンジは私の両手を引きながら少しだけスピードを上げた。
「氷の上の君は妖精みたいに美しい」
「……なら、サンジが羽よ。私が転ばないように背中を押してくれる羽」
「それじゃ、おれが君を氷の世界に連れて行くよ」
そう言ってサンジは私の背中と膝裏に手を回して私を抱き上げる。突然の浮遊感に驚き、サンジの首に腕を回す私。
「下ばかり見てちゃ勿体無ェよ、レディ」
サンジの視界を共有するように私の瞳は先程まで見過ごしていた真っ白の世界を映し出す。一面に広がる氷は恐怖心を煽るものからサンジが言う未知なる氷の世界に様変わりする、自身でも単純だとは思うがサンジの美しい滑りで見る世界は先程とは違う。
「どうだい?」
「……綺麗」
だろ、とサンジは目尻を下げる。私はサンジの首に回した腕にぎゅっと力を入れてコクリと頷いてみせる。
「まだ、怖い?」
「あなたみたいに上手くいかないもの、滑って転ぶのがオチよ」
「おれを信じて」
そう言って私を氷の上にゆっくりと下ろすサンジ、膝が震える前に支えられた両手が恐怖心を減らす。サンジの「信じて」は何故か不思議と信じられる。それにサンジの目の前で転げようと氷に衝突する前にサンジの体が私を受け止める事を知っている。
「離さないでね」
「勿論」
君と手を繋げる理由が出来て最高だよ、と冗談めかすサンジの手をぎゅっと握りながら私は一歩を踏み出す。この白鳥を繋げる鎖になれているのならまだ下手なままでいいとすら思えた自身に内心で苦い笑みをこぼした。