短編2
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付き合って数ヶ月、私には我慢ならない事がある。サンジは私には勿体無い程の出来た恋人だ。だが、財布の紐の緩さについてだけは一言物申したい。自身の料理器具やスーツ、煙草にお金を掛ける程度なら私だって態々口に出して注意なんてしない。サンジの財布の紐は私限定でとんでもない緩みを見せる、貢物とも言えるプレゼントにデート代に島での宿代。サンジと付き合ってから私の財布の出番は無くなった、何故か出番の度にサンジの手元にあるのだ。
「……どんな手癖してんのよ」
「っ、くく、美人な泥棒猫さんに教えてもらった」
直伝だぜ、と私の財布を指に挟んでニヤリと片方の口角を上げるサンジに私は白旗を振る。
「オレンジ色の泥棒猫を叱らなくちゃ」
「代わりにおれを叱ってよ、レディ」
愛の鞭でおれを虐めてくれ、とキリッとした顔をして語弊がある発言をするサンジの背中を叩く。
「どうせ、反省しないで怒ってる君も可愛いなァって鼻の下を伸ばすに一票」
「残念、二票だよ」
君とおれの二票、と指でピースサインを作るサンジは私の財布を持ったままゆっくりと歩を進める。
「それにさ、たまの上陸ぐらいカッコつけさせてよ」
「財布にしたいから付き合ってるわけじゃないわ」
「知ってるよ。ただ、おれが払いたいだけ」
サンジは私の手に自身の指を絡めて二人の間で繋いだ手を揺らす。以前まで私の歩調に合わせて歩いていた足はもう意識しなくても二人のペースになっていた、どちらかが遅れる事も先に歩を進める事もない。
「この世界には君にあげたいものが多過ぎる」
見せたいものもね、そう言ってサンジは目尻を下げ、自身のスラックスのポケットに財布をねじ込んだ。財布を取り返すのにも手を繋がれたままでは届かない。
「だけど、君の夢は金じゃ手に入らねェ。それに何でもかんでも金で解決するのはロマンがねェだろ?」
似た夢を持つ私とサンジ。サンジの夢だって金では買えない、何処にあるかも分からない幻のオールブルー。
「……夢以外はさ、全部おれの手で君にプレゼントしたい。欲しいもんも食いてェもんも見てェもんも全部おれが君に用意したいんだ」
「破産しても知らないわよ」
「なら、君がおれの財布の紐を握っててよ」
ついでにリードもね、そう言って空いた手で自身の首のネクタイを引っ張るサンジ。そんなサンジの手からネクタイをひったくり、自身の方に引き寄せる。
「良かったわね、私が安上がりな女で」
私が夢の次に欲しがったものはもう手元にあった。一銭も掛からずに私のものになり、今もこうやって私の横にいるのだった。