短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
飴をコロコロと口の中で転がすサンジ、飴が行き来する度にぷくっと膨らむ頬が可愛くてつい見つめてしまう。そんな私の視線に気付いたサンジはナマエちゅわんと甘えた声で私を呼んで両手を広げる。
「ご褒美のハグが欲しいなァ」
「何のご褒美?」
「半日禁煙したご褒美」
普段は一日で三、四箱の煙草を消費するサンジが半日も我慢出来ているという事実に私は驚いてしまう。ソファに座り込むサンジの上半身に腕を回してお望み通りのご褒美を与えれば背中に優しく腕が回される。
「えらい、えらい」
「ナマエちゃんに褒められちった♡」
今日のおれね、八時間ぐれェ吸ってねェの、そう言ってサンジは立ったままの私の体を引き寄せて膝に座らせる。母親に一日の出来事を報告する子供のようなサンジの話し方につい母性が刺激されて頬が緩んでしまう。
「本当?いつもだったら二箱空けてる時間じゃない」
「おれ、すげェ?」
「とっても」
セットされたふわふわな金髪に手を伸ばして頭を撫でる、くすぐったそうに笑いながらサンジは続きを強請るように頭を擦り寄せてくる。
「ご褒美にちゅーなんていかが?」
「明日も禁煙する」
「ふふ、無理しないで。それに急に禁煙なんてどうしたの?」
先程から考えていた疑問を口にする。いきなり禁煙なんてどうしたのだろうか、サンジと煙草はイコールの関係だと言えてしまうぐらいにはヘビースモーカーの印象が強い。
「……煙草、本当は苦手って聞いて」
「誰が苦手なの?」
ナミもロビンも煙草が苦手だなんて言っていなかった。他の面子を頭に浮かべてもサンジが男性陣の為に禁煙する姿は失礼ながら思い浮かばない。
「ナマエ ちゃんがあんまり煙草得意じゃねェって言ってたから、どうにかして辞められねェかなって」
「私?」
自身の顔を指差してサンジの方を見る、そうすれば小さく頷いて目線を下げるサンジ。
「今まで我慢させちまってたよね、ごめんね」
「えっと、私、煙草苦手じゃないよ?」
申し訳なさそうにしているサンジには悪いが私は別に煙草を嫌がってはいない。健康面の心配はあるが、サンジが三箱吸おうが四箱吸おうが長生きしてくれるなら正直どうでもいいとすら思っている。
「こないだ、ナミさんとお話してなかったかい……?」
同じ船に乗っていれば話さない日は無い、今日までの記憶を掘り起こすように私は頭の中を整理する。
「あ、私も前に吸ってたって話したかも」
でも、私にとってはストレスが溜まると手を出すって感じだったからあんまり自分で吸うのは好きじゃないの、と説明する私にサンジはホッと安心したように息をついた。喫煙者のサンジを嫌がっていたわけではない事、私が煙草を辞めた事、きっと両方に対しての安心だろう。
「勘違いさせてごめんね」
「んーん、おれの勘違いで良かった。君に嫌な思いをさせてなくて安心しちまったよ」
膝に乗ったままサンジの体をぎゅっと抱き締めてご褒美のキスを贈る。ころりとサンジの口内を転がる飴を舌で絡め取り、ミント味のキスを繰り返す。
「今はこうやってサンジがいるから煙草の出番が無いの」
「おれェ?」
「ハグしてキスしてあなたを感じる方が幸せだもの」
本音を溢した私の体にサンジの腕が苦しいくらいに巻き付いてくる。首筋に当たっている金髪がくすぐったいが今はこの痛いくらいの抱擁が恋しかった。
「かあいいなァ、本当困っちまうくらい」
君がいればおれも禁煙出来っかな、と自身の金髪をくしゃりと掻くサンジに私は肯定も否定もせずに嫌だと口にした。
「格好良いから取り上げないで」
煙草を挟む細長い指先、煙草を咥える口。煙草の煙を燻らすセクシーな横顔も格好良くて目が離せなくなる。サンジの健康を考えたら禁煙する背中を押さなくちゃいけない事は分かっているがもうその姿を見れないと言われたら何箱でも買い与えてしまいそうだ。
「それもご褒美?」
「私のただの願望よ」
「……君のせいで半日で失敗だ」
攻めるような言葉とは裏腹にサンジは恋人を甘やかすような表情を作る。そして、ポケットに手を入れて煙草のケースを取り出すサンジの口の中で飴が割れた音がした。