短編2
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歩幅を合わせてくれていたサンジの長いコンパスのような脚は先へ、先へと点を打つように人通りが多い大通りから足早に離れて行く。目的地も何も分からない自身の手を引くサンジの腕だけが今の私にとっては頼みの綱だ。どこに行くの、という質問は先程から無言の背中に却下されている。
「皆、心配するわよ」
「知らねェ」
やっと返ってきた反応に私は肩の力を抜く、どうやらサンジを怒らせてしまったわけではなさそうだ。
「あっちじゃないの?」
「予定は変更だ、レディ」
勝手に変更しないで、と声を上げてもサンジの珍しい我儘は続く。今日のサンジは待ち合わせからずっとらしくない。この我儘の裏に隠れた真意に気付けないまま、私は慣れない下駄をカランコロンと鳴らしながらその背中に着いていく事しか出来ない。
サンジの歩調が段々とゆっくりになり、目の前には人気の無い公園が見える。その公園に足を踏み入れたサンジはベンチにどかりと腰掛ける。普段だったら私が座るまでは座ろうとしないくせに今日のサンジはゼロから十までらしくない行動ばかりを起こす。
「それで今日はどうしたの?」
「……何が」
「その様子のおかしさとか私を此処まで引っ張って来た意味とか色々よ」
様子のおかしさねェ、と笑うサンジはスラックスのポケットに両手を入れて足を組む。サンジの腕を軽く叩くと、本心を隠すつもりなら怒るわよ、とわざと睨んで見せる。
「隠してェのは君の事だけだよ」
「私?」
サンジの瞳に私の淡い色の浴衣が映る。そして、歩く度に金魚のように揺らめくのが可愛くて買った兵児帯にサンジの指が絡まる。
「……あぁ、誰にも見せたくねェなァって一丁前に独占欲の野郎が暴れ出したらもう駄目だった」
気付いたら君の手を引いてあいつらを置いて来てた、とサンジは苦笑を浮かべる。
「あまりにも綺麗だから隠したくなっちまった」
ごめんね、とサンジは私の右手に自身の手を重ねて情けない顔を晒す。私はその手を握ると自身の方にサンジの体を引く。うお、と気の抜けた声を出したまま体勢を崩したサンジは握られていない左手をベンチにつけ体勢を整える。
「……あっぶね、潰しちまうとこだった」
「サンジ」
サンジの顔を両手で挟んで至近距離でその顔を見つめる。茶化しているわけではないサンジのストレートな褒め言葉の前では文句の一つすら浮かばない。ただ、浮かぶのはサンジへの愛だけだ。
「もっと独り占めして」
浴衣の袖を摘んで笑ってみせればサンジはゴクリと喉を鳴らす。ぽこんと主張した喉仏を指でなぞり、その唇に自ら噛み付いた。背後で鳴った爆発音のような爆音は花火が打ち上がった音だろうか、ウソップが見つけて来た穴場で見たらきっと視界を埋めるように大輪の光の花が咲いていたのだろう。
「……花火が霞んじまうね」
「霞むも何も私しか見てないじゃない」
花火は後ろよ、と指差せばサンジは私から目を逸らさずにこう口にした。花の精みてェな姿でおれに嫉妬の火を付けた君は間違いなく花火だよ、と。
「ふふ、上手いじゃない」
「このぐちゃぐちゃな感情を綺麗な花として打ち上げる事が出来たらさ」
嫉妬心もいつかは落ち着くのかな、と空を見上げるサンジを否定するように花火は音を立てて背後で打ち上がる。私はその爆音に隠れるように本音を口にする。
「あなたの為に私は咲いてるのよ」
きっと、サンジの耳には私の本音が届いた筈だ。その証拠に大袈裟な抱擁が私の体を迎え入れたのだった。