短編2
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人には癖がある、無難なものから厄介な癖まで様々な癖がある。私の恋人は後者である厄介な癖を持っている、この浮気癖はどんな治療法があっても治らない不治の病と一緒だ。以前、それをサンジに言った時は、おれのこれは病気だったのか、とまるで他人事のように納得していた。見ての通り、サンジは浮気イコール悪だとは思っていないし辞める気も無い。私だって今更、他の女にうつつを抜かすサンジを懲らしめてやろうだとか私だけのものになってと縛り付ける気は無い。大事にはされている、優先順位をつければ間違いなく私が一位という自信がある。
「寄り道をしてもここに帰るよ」
君の腕にね、と溢したサンジの頭を抱き寄せながら先の見えない関係に溺れる。
「寄り道の方が圧倒的に多いくせによく言うわ」
「それは言わねェ約束」
戯れつくようなキスをしながら勝手な約束を取り付けられる、都合の悪い事を口にすればこうやってまた私の口に蓋をするのだ。今は言わねェで甘い話だけをしよう、とシーツの海に二人の体はゆっくりと沈んだ。
女物の香水やキスマークの代わりに男の勲章とも言える大量の怪我を拵えてきたサンジ、頬には立派な紅葉が広がり事後の傷には見えない爪痕がサンジの大事な手に広がっている。私は思わず立ち上がるとサンジのその手を取り、低い声で疑問を口にする。
「誰」
「ん?」
「誰がサンジの大事な手を傷付けたの」
サンジは傷だらけの手で私の手を握ると首を横に振る。
「レディを傷付けたツケだよ、この傷はレディの心におれが今まで付けてきた傷」
「……サンジ」
おれは酷ェ男だから、とサンジは乱れた髪をくしゃりと握り、へらりと笑った。そんな事わざわざ口にしなくても知っている、サンジはどうしようもなく酷い男だ。関係を持っては全員をお姫様にして全員を一番にする、サンジにはそう錯覚させる才能がある。私だって本当は何番目かなんて分からない。それでも、サンジの碧に浮かぶ私はいつだって一番いい女の顔をして笑っているのだ。
「今更ね」
「そ、今更気付いた。何もかも」
酷ェ男な事、ヤリチン、クソ浮気野郎、レディを崇拝するおれが一番レディの敵、と指折り数えながら今更な気付きを発表するサンジ。私はそれにくすくすと笑いながら、最低ね、とサンジの肩に寄り掛かる。
「……君が大切だって事にも気付いた」
「都合が良い口は塞いじゃおうかしら」
そう言って切れた唇を指で摘めば、痛みに顔を歪めるサンジ。そんな顔をされたらまるで私が虐めているみたいだ。
「信じて欲しいとは言わねェ、それに君にだっておれを傷付ける権利がある。だからさ、君も好きにしていいよ」
他の野郎の所に行ってもいい、この手を潰したっていい、ただ、君を待つおれを許して、とサンジは懺悔をするように私の両手を握り額を押し付けた。
「……寄り道はいいの」
「たった一人を待ちたい」
都合が悪い話題を出してもサンジは私の唇に蓋をしようとはしなかった、誤魔化しも甘い嘘もそこには存在していなかった。
「いつも待つのは私じゃない」
「待たせてばかりでごめんね」
「……今更、待たせる側になんてなれないわ」
だから、寄り道せずにここに帰って来なさい、とサンジの捨て犬のような泣き顔を隠すようにその頭を抱き寄せた。顔の紅葉が消え、大事な手から引っ掻き傷が消えてもサンジがここにいますように、そんな小さな願いと一緒にぎゅっとサンジを腕にしまい込んだ。