短編2
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城内に響いた愛しい者の声、聞く者によっては随分と情けない台詞だ。だが、その名を呼ばれたロビンには一等嬉しい台詞だろう。私は二人の近くにいたわけではないが、ただ少しだけその台詞が羨ましかった。
『助けて、ナマエちゃん』
サンジがそう口にすれば私は直ぐにでも向かうだろう、ヒーローは遅れて参上すると言うがせっかちな私はきっと待っていられない。今すぐにでも敵の顔をぶん殴って、私のサンジに何するのよ、と半ば八つ当たりのような台詞を吐いてサンジを救出するのだ。脳内では完璧な救出劇が開催されているのに実際サンジが助けを求めたのはロビンだ、その人選に文句なんて無い。ただ、恋人として妬いたのだ。こんな戦火の下で嫉妬の炎を燃え上がらせてるのなんてきっと私だけだろう。その犠牲になるのはサンジの言葉を笑うカイドウの部下達。情けねェ、と笑う敵を一掃する為に私は武器を取り出した。
船に戻って数日、数日前まで命懸けの戦いをしていたとは思えない程に日常が戻っていた。だが、嫉妬というものは厄介なもので考える時間が出来れば出来る程、当初の熱を思い出す。カイドウの部下をボコボコにしたって何の解決にもならなかったらしい。
「ナマエちゃん、どうかしたの」
蝉のようにサンジの背中に張り付いている私をあやすようにサンジはトントンと私の背中を叩く。返事の代わりにその広い背中に頭をグリグリと押し付け、無言の八つ当たりをする。思い当たる節がねェんだけど何かしちまったかな、とサンジは自身の今日の行動を振り返っているが今日のサンジは何もしていない。それにワノ国でしたあの行動だって間違ってはいない、ただ、面倒臭い私が勝手に突っ掛かっているだけだ。
「……私の事も頼って」
「悪ィ、話が見えねェ」
「助けて、ナマエちゃんってサンジが呼んだら私だって助けられるもん。相手のことぶん殴ってボコボコにしてサンジのことお姫様抱っこして救い出すし……虫だって追い払ってあげるわ、それに、こんにゃくだって食べてあげる」
着地点を失い、大した事ない案を次々に上げていけば、私を張り付けたままでいるサンジの背中が揺れる。
「っ、くく、こんにゃくから助けてくれんの?」
「……例えだし」
苦手なものが少ないサンジが嫌になる、女、虫、こんにゃく、他には何があるのだろうか。
「なぁ、ナマエちゃん。早速だけど助けてくれる?」
「なぁに」
「可愛過ぎる君から助けて欲しい」
心臓が痛ェ、とシンクの縁に片手を置いてもう一方の空いた手で自身の胸を押さえるサンジ。
「……どうやったら助けれる?」
自分自身をボコボコにした方がいい?とサンジに尋ねれば、サンジはまたおかしそうに笑って首を横に振る。
「前に来ておれの腰に手を回して?」
サンジとシンクの間に移動してそのキュッと締まった腰に腕を回す、続きを促すようにサンジの顔を見上げれば柔らかく下げられた瞳がこちらを見る。
「いい子だ、次はキスして?君のルージュが移るくらいの熱いやつ」
「それから?」
「おれはいつも君に助けられてるってその頭にちゃんとメモして、君の存在はいつだっておれを救う」
今もあの時もこれからも、そう言ってサンジは私からのキスを待たずに自身から熱いキスを仕掛ける。お互いの口を汚すルージュに二人で噴き出すまで、あと数秒。嫉妬の炎はサンジによって鎮火されるのだった。