短編2
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目付きの悪さと髭を抜きにすればサンジは随分と品のある顔立ちをしている、そして周りが羨む程のスタイルの良さ。この世界には規格外な長身が溢れている、長い手足を持て余した者も横に大きい者も多種多様だ。だが、ここまでスーツを着こなせるのはサンジだけだと私は思っている。筋の張った首に鍛えられた大胸筋、腹回りは弛む事なく絞られている。そこには板チョコのような腹筋の線が入り、彫刻のようだ。そして、ガッシリとした肩幅にキュッと持ち上がった形の良い尻。着痩せする質だ、と本人自ら言っていたようにスーツの上からでは線が細くモデルのように見えるが実際スーツの下に隠した体は闘う為の鋭さがある。体に馴染んだスーツはサンジの色気をより確信めいたものにする、はっきり言って目に毒だ。
「……かっこよくて死んじゃうかも」
騒がしい船内でそんな独り言を溢す。船長の盗み食いを見つけ、叱り付けているサンジの丸まった背中に見惚れていると言ったらサンジは笑うだろうか。
「あぁ、嫌だ、嫌だ」
恋は盲目で嫌になる、その呆れた溜息も怠そうに緩めたネクタイも指に引っ掛けて肩に預けるようにジャケットを持つその姿も格好良くて嫌になる。あぁ、嫌だ、とその猫背を見つめていれば私の熱い視線に気付いたサンジがこちらを向いて髪色と同じ色をした睫毛を震わせて笑う。
「ナマエちゃん」
笑みひとつ、所作ひとつ、どれを取っても噎せ返るような色香に当てられる。あぁ、もう最悪だ、世界中がこの人にメロメロになってしまう、なんて馬鹿な事を考える。きっと、そうならない為に神様はサンジに女好きというオプションを付けたのだろう。
「……それ以外の欠点も付けてくれたら良かったのに」
ここが賑やかな海賊団で良かった、こんな恥ずかしい独り言を聞かれたらそれこそ死んでしまう。恥ずか死ぬとよく言うが海賊の死因にしては随分情けなくて笑い話にもならない。
「っ、くく、誰がかっこよくて死んじまうの?」
あ、おれしか聞こえてねェから安心してね、と付け足された言葉は耳を通り過ぎていく。ギギギ、と壊れたロボットのようにサンジを見上げれば、それはもう良い笑顔のサンジと目が合う。蚊の鳴くような声で、殺して、と口にすればサンジは喉を鳴らして笑う。
「かっこよさで?」
「……っ、ほじくり返さないで」
熱い視線を寄越したのは君なのに、とサンジは戯れつくように私の腰に腕を回して顔を近付けてくる。
「スーツ!スーツがかっこいいって言っただけ!」
「ふは、君の前でも何十回って着た事があるスーツに?」
何を口にしても墓穴を掘るだけの私にサンジはくすくすと肩を揺らす、そんなサンジが着ているのは新品ではなく見慣れた黒いスーツだ。
「君が見惚れたのは見慣れたスーツ?それとも見慣れたスーツの下のおれ?」
ネクタイに指を引っ掛けて私の顔を覗き込むサンジ、緩んだ襟元からは白肌がちらりと覗く。
「なっ、ま、まって」
サンジの襟元を両手でグッと隠すように押し返す。少しだけ肌が見えただけで大袈裟だと自身でも思う。だが、私にはオプションの防御も効かなければサンジに対抗する技も持ち合わせていない丸腰の状態だ。
イイコトを教えてあげる、とサンジは言う。イイコトとは何だろうか、私はサンジの言葉の真意が分からず首を傾げたまま答えを待つ。
「おれさ、好きな子の好みとか系統に合わせるタイプなんだよね」
「うん……?」
「だから、ここ最近クソ暑ィのにスーツばっかり着てる」
思い返してみれば夏島に近付くとサンジはもっとラフな服に袖を通していた。だが、最近のサンジはどうだろうか。太陽がギラギラと浮かび、汗が滴るような気温の日でもスーツに袖を通し、涼しい顔をしているのをよく見る。
「おれの好きな子はスーツを着ているおれが好きらしい」
「待って、それって」
「……って思ってたけどさ」
自惚れてもいいかな、そう言って私の顔を覗き込んでくるサンジの顔を両手で押し返して私は真っ赤な顔を隠すように下を向く。
「……かっこよくて死んじゃうから」
まだ、見ないで、と蚊の鳴くような声でストップを掛けた私の両手の隙間からサンジは容赦の無い告白を続けるのだった。