短編2
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「何でも口に入れるなって言ってるでしょ!」
「……見た事ねェ食材だったから」
キレ散らかすナミの圧に押されているのはサンジだ、その体はナミに絞られているせいで小さくなっているのではなくサンジの悪い癖によって招いた事故である。料理人であるサンジは自身が知らない食材に滅法弱く、そして知的好奇心が刺激されるのかその怪しげな食材を口にしてしまう。毒などの死に至るような食材は料理人の勘と経験で分かるらしく口に入れるような真似はしない。だが、その一歩手前までだったら平気で口にしてしまうサンジ。その度にチョッパーやナミが雷を落とし、サンジをこれでもかという勢いで叱りつける。
「ナミ、そろそろ可哀想だわ」
「あんたはサンジくんに触りたいだけでしょ!」
「えへ」
「笑ってんじゃないわよ」
ナミの後ろでハラハラとこちらの様子を伺っているサンジにへらりと笑って手を振る。そうすれば、ナミは溜息をついてキッチンを出て行ってしまう。
「服はあんたの貸してやんなさい」
「えぇ、分かったわ」
ナミが出て行ったキッチンで二人っきり、ぺたりと座り込んでしまったサンジの傍に寄ってしゃがみ込む。
「女の子だと随分華奢なのね」
「……恥ずかしいからあんま見ねェで」
恥じらうサンジの姿はどう見ても可愛らしい女の子だ、胸は控えめで慎ましい印象を受ける。着ていたジャケットをぎゅっと握り締める仕草は彼氏からジャケットを借りた女の子のようで微笑ましい。
「サンジの気持ちが分かったかも」
「どういうこと?」
「可愛い女の子はいくらでも見てられるって」
ぴゃ、と変な鳴き声を出したサンジは顔を赤くして私を見る。普段あれだけ人に愛を叫んでおいて自分自身の事になるとこうも可愛い反応をするサンジに私の緩んだ顔は元に戻りそうにない。
「おれより君の方が可愛いよ」
「サンジの方が可愛いわ」
「君」
「サンジ」
額をコツンと合わせてこのフリを続ける私はきっと意地悪だ、この生産性の無いやり取りを続けていれば至近距離でサンジを見ていられる。碧眼の上に影を作る睫毛はお人形のようだ、その下の鼻だって小ぶりで可愛い。普段の髭面からは想像がつかないドールフェイスを目に焼き付けるように私はサンジが折れてくれるまで可愛いを口にする。
「……自分に妬いちまいそうだ」
「?」
「だって、女になってからの方が君の視線が甘ェ」
厚ぼったい唇を尖らせながらサンジは不満げな瞳で私を見る、その視界を手で塞いで柔らかそうな唇に自身の唇を押し付けた。
「んっ、もう、おれ、怒ってんだけど!?」
「キス待ち顔みたいだったから」
「っ、違ェ」
嫌だったの、とその尖った顎を指で掬い取って顔を覗き込めば勢い良く顔を背けられてしまう。
「……君に攻められてるみてェで心臓がおかしくなりそうだ」
目線が変わったからか、それとも体に引き摺られたのか、サンジは先程からずっと女の表情で私を無意識に誘う。キッチンで放心状態で座っていたサンジを見つけたのは私だ、涙目で私の手を握ってどうしよう、ナマエちゃん、と見上げてきた泣き顔も女になった自分自身にヤキモチを妬いて唇を尖らすその姿も全部が目に毒だ。
「みたいじゃなくて、攻めてるの」
私、可愛い子は苛めたくなるタイプみたい、と他人事のようにそう口にすると私はサンジを抱き上げる。ナミよりも軽いその体に驚きながらも顔には出さず、腕の中で暴れるサンジを落とさないように歩き出す。
「今なら女部屋に入れても問題無いわよね」
「へ!?」
「良かったわね、夢の女部屋よ」
すれ違ったナミとロビンに口パクで用件を伝えれば、ナミの呆れた溜息とロビンの楽しげな笑い声が返ってくる。
「あれは仕方ないわねって顔と苛め過ぎちゃ駄目よって顔、これで暫くは二人っきりの時間を満喫出来るわね」
そう言って白肌に何度もキスを落とせば、サンジの小さくなった手が私のシャツを控えめに握る。
「ん?」
「……嫌じゃねェのが嫌だ」
初心な恋人は私の胸に顔を埋めて、蚊の鳴くような声で訴えてくる。照れちまう、恥ずかしい、女の子になっちまう、と続く言葉に私はニッコリと笑ってこう口にした。女の子にしてあげる、と。