短編2
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ルフィが両手で骨付き肉を頬張る横で私は青い顔をしながら立ち上がる、心配そうにこちらに視線を向けるサンジにごめんと一言断りを入れてキッチンを出る。食べたい気持ちと食欲はどうやらイコールでは無いらしい、この連日の暑さで夏バテ気味な私は気持ちとは裏腹にサンジのご飯すら食べれなくなっていた。そんな私にいち早く気付いたサンジは軽めの食事を用意してくれたり冷たい物を積極的に出してくれたり手を尽くしてくれているが私の胃はそれを受け付けようとはしなかった。その度に心配そうに歪むサンジの顔、まるでサンジの愛を拒絶しているようで自身の体が嫌になる。
『料理は愛だよ』
『愛?』
『相手がいて初めて料理は完成するんだ』
食ってくれなくちゃ料理人の自己満足で終わっちまう、とサンジは以前に言っていた。それを聞いてから私にとっても食事という行為の意味が変わった、以前は生命維持程度に思っていた食事が大事な時間に変わったのだ。お皿にのせられた愛を受け取る時間。そして「美味しい」という言葉は料理人の恋文に返事を書く事とどこか似ている、文通も相手がいないと意味がない。
ベッドでぐったりと横になっていれば、コンコンと扉をノックする音が聞こえる。
「ナマエちゃん、入ってもいいかい?」
「……えぇ」
扉を静かに開け、中に入ってきたサンジの手にはお皿がある。お皿の上には食べやすい大きさに切られたフルーツがのっている。きっと、あそこにある蜜柑はナミの蜜柑だろう。
「ちょっとでも食えねェかな……?」
サンジはベッドの端に座ると私の頭を撫で、特徴的な眉毛をハの字に下げる。無理はしなくていいからね、と撫でてくれるサンジの手が優しくて猫のように頭を擦り付けてしまう。
「ちょっとだけなら」
「本当かい!?」
私の返事にパァっと花が咲いたような笑みを浮かべるサンジ、こんな顔をされてしまえば拒否するという選択肢は無くなる。私はベッドに片手をついて体を起こす、起こした体はサンジの空いた手で支えられ、サンジの肩に凭れ掛かるように座らせられる。
「まるで介護ね」
「一生を過ごす練習さ」
「一生付き合ってくれるの?」
「出来るなら来世も」
そう言ってサンジは私の口にフォークに刺さった蜜柑を差し出す。ナミの蜜柑か、と尋ねればサンジは穏やかな笑みを浮かべて頷く。
「君の顔色がゾンビみたいって心配してたよ」
「ふふ、ゾンビって酷いわ」
歯を立てれば、口の中にスッキリとした果汁の甘さが広がる。夏バテ気味の私には丁度いい甘さだ。
「美味しい」
「君が食ってるだけで泣きそうだ」
サンジの腕が私の腰に回され、出っ張った腰骨をなぞる。こんなに痩せちまった、と肩を落とすサンジは私がこの世から数キロでも減る事が許せないらしい。
「……前の私だったら痩せれて嬉しかった筈よ、でも今はサンジのご飯が食べられなくて悲しいわ」
食べたい気持ちと食欲はイコールではない。どれだけサンジの料理が食べたいと思っていても頭に好きなメニューが浮かんでいても実際はフルーツや水分しか受け付けない体。
「ゼリーとかだったら普通のメシよりかは食いやすいかな?こう、一口サイズとかにしたら食えねェ?」
「皆と別メニューじゃサンジが大変でしょ、私なら平気だから」
そう言ってへらりと脳天気な笑みを浮かべ、サンジを見上げれば線の細くなった私の体を確認するようにサンジは私を抱き締めた。
「おれが平気じゃねェの」
「……サンジ」
「夏バテならこの暑さが落ち着けば自然と食欲も戻るって理解はしてんだけどさ、頭と感情は別って言うか……おれが勝手に不安がって心を痛めてると言いますか……えっと、んー、心配で死にそうなの、おれ」
サンジの背中に腕を回して存在を知らせるようにゆっくりと撫でる。
「大変じゃねェからだめ?」
顔を覗き込んでくるサンジの顔はまるで子犬のようだ、ご主人様にきゅるんとした瞳を向けてクゥーンと切ない鳴き声を上げる子犬。この顔にノーを言える人がいるのなら会ってみたいとすら思う。
「ナマエちゃん……?」
「(……私には無理ね)」
渋々頷く私の額に自身の額をコツンと合わせて、約束、と口にするサンジ。きっと、明日になれば冷蔵庫の中には私専用ゾーンが用意され、お節介で甲斐甲斐しい恋人がスプーンを持って、はい、あーん、と糖度百パーセントの顔をしてゼリーの形をした恋文を私に運んでくるのだ。