短編2
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サンジの長い腕がバツを描き、また振り出しに戻る。私の背後の試着室には選抜から落とされた水着が何着もハンガーに掛けられていた。形だって色だってサンジの好みに寄せて選んだ筈なのに何が気に入らないのだろう。理由を尋ねても曖昧な笑みで誤魔化され、段々と腹が立ってきた。
「サンジ」
「……ハイ」
「似合ってないならそう言えばいいじゃない」
違う、という否定が聞こえたが私はそれを無視するように試着室のカーテンを閉じた。自身が着ていたシャツとショートパンツに履き替え、試着した水着を片付けようとハンガーに手を伸ばす。だが、カーテンの隙間から伸びてきた手がそれを止める。
「男子禁制」
「っ、悪ィ、中には入んねェから……そこで聞いて」
小さく頷いてカーテンの隙間から控えめに伸ばされたサンジの手を握る。エアコンが効いてひんやりとした店内だというのにサンジの体温は高い、握っている手が熱くて火傷してしまいそうだ。
「……全部可愛かったよ、二着目のやつなんて特に肌が真っ白な君にお似合いだった。だけど、腰のリボンが解けて野郎共に見られたら……っ、おれはビーチ中の野郎の目を潰して回らなくちゃいけなくなる。正直、肌すら見せたくねェ」
「ショートパンツはいいの?」
サンジの手を自身の太腿に持っていけば、カーテンが揺れる。この何時までも変わらないサンジの童貞臭さは何なのだろう。
「……私の足でそこまで動揺するのなんてサンジくらいよ」
「君は自分の魅力に無頓着だから」
「だって、サンジにだけ効けばいいもの」
握ったままの手を引き、カーテンの中にサンジを入れる。突然の事にバランスを崩したサンジは私を押し潰さないように試着室の壁に片手を付いた。壁とサンジの間に挟まれた私は爪先立ちをしてその髭が生えた顎にキスをする。
「男子禁制じゃなかったのかい」
そう言って私の腰に腕を絡めるサンジ、戯れるように鼻を擦り合わせてくる姿は人間というよりも犬のようだ。
「サンジに見せる為に買ってもいい?」
サンジが褒めてくれた二着目の水着を手に取り、サンジの目の前でヒラヒラと揺らす。
「そんな言い方されたら断れねェんだけどォ?」
腰に回されていた腕に力が入り、二人の距離がゼロになる。旋毛にグリグリと顎を当てられながら私はサンジの背中に腕を回す。
「ビーチで誰かさんが浮気しないように私だけ見てて」
「とっくに君しか見てねェよ」
着せてェのもリボンを解きてェのも君だけだよ、そう言ってサンジは私の横に掛けられた水着を全部手に取って試着室を出て行く。
「へ」
「全部おれの為に着てよ、レディ」
スラックスの尻ポケットから財布を取り出したサンジは試着室から出て真っ直ぐレジに向かった。私はその辺に転がっていた自身のサンダルに足を引っ掛けてゼロか百しか無い困った恋人の背中を追うのだった。