短編2
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恋人しか呼ばない呼び方で彼の名を呼んでみたいと思った。サンジはそのまま過ぎるし普段と変わらない、サンジくんはナミや偶にウソップもその場のノリで呼んでいる事がある。ぐるまゆはゾロ。きっと、私がゾロと同じようにそう呼べばサンジは傷付いた顔をして床に崩れ落ちてしまうだろう。
「サンくん、サー……っ、ふふ、これじゃクロコダイルみたい」
サーは無しと脳内でバツ印をつけて、私はまた思考の海に潜り込む。サンくん、サーくん、サーちゃん、サンちゃん、どれもピンと来ず、私は頭を抱えたままテーブルに崩れる。他人から見ればくだらない悩みかもしれないが今の私はこうやって恋に浮かれている時間が好きだ。普通の女の子のように些細な事に一喜一憂しながらサンジに想いを馳せる時間が愛しいと思える。
「さっきから可愛い独り言が聞こえんだけど、それっておれの事かい?レディ」
頭をくしゃりと撫で、サンジは私の旋毛に口付ける。いつからいたの、と尋ねる私にサンジは肩を竦めて、鰐野郎の話が出た辺りかな、と口にする。
「秘密だったのに」
「先に聞いといて良かった」
「どうして?」
君の可愛さに心臓がもたねェから、とサンジは自身の心臓を押さえてへらりと笑う。冗談に聞こえるがサンジはちょっとした事で血を無駄にしたり生死を彷徨ったりする。その全てに私が関与していた時は自身の可愛さが怖いと馬鹿な考えが浮かんだが私の可愛さはサンジにしか効果が無いらしい、サンジにだけだったら致死量だと言われた時は笑ってしまった。
「サンくん」
「……かわい」
「でも、しっくり来なくない?」
ニヤけた顔半分を覆い隠すようにサンジは両手で自身の口元を隠す。サンジにはどうやら効果抜群のようだが、私の舌にはまだ馴染んでいない。繰り返し色々な呼び方を試してみるが、サンジに致命傷を与えるだけでどれも恋人を呼んでいるようには聞こえない。
「君が呼ぶサンジって音は一つじゃねェって知ってる?」
「?」
「二人っきりの時はちょっぴり甘ェし、拗ねてる時はわざと怒ってますって声出すよな。あれさ、可愛くて大好き」
「こっちは真剣に怒ってるんだけど」
ジト目でそのだらしない顔を睨み付ければ、心が籠ってない謝罪が返ってくる。きっと、今だって拗ねてる顔が可愛いだの怒ってる君も愛しいだとか頭の中をお花畑にでもしているのだろう。
「あと、君は怒るかもしんねェんだけどさ……」
君がベッドで呼んでくれるサンジも好き、とサンジは言う。
「別にスケベな意味とかじゃなくて、それっておれしか聞けねェからさ……特別な気がして、好きだなって」
そんな事を言われたら私だって思い出してしまう、ベッドでの声、心配が滲んだ声、私の瞳を覗き込みながらサンジの口から飛び出す世界で一番甘ったるいナマエちゃんという呼び声。
「……うぅ、ずるい」
「ずりィ?」
「ずりィよ、ばか」
額をコツンと合わせて互いの名前を呼ぶ。変わった呼び方では無く、普段通りの呼び方をすれば、サンジは何かに気付いたように声を漏らした。
「あのさ、気付いたんだけどさ」
「ん?」
「君の舌が馴染む程、おれは君に名前を呼ばれたんだね」
その幸せそうな顔に肯定を示せば、もっと呼んで、とリクエストが返ってくる。
「サンジ」
その呼び方は私専用ではないけれど、まるで特別だとでも言うように舌に馴染んでいた。そして、酷く甘い音を鳴らし、彼を呼んでいた。