短編2
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『一人で生きていける女』
『君は強いから大丈夫』
『女は愛嬌』
全て聞き慣れた男の戯言だ。どんな男と付き合っても最終的には皆、私よりも可愛げがあって守ってあげたくなるような女の元に行く。その度に傷付いていないフリをして強がる私。
『こっちから願い下げだ』
そんな台詞と一緒に男の尻を蹴り飛ばした私の顔は上手く強い女を演じられていたのだろうか。きっと、中途半端な顔をしたまま下手な笑みを貼り付け、泣いていた。
過去は過去、今は今と割り切れたのはサンジがいたからだ。サンジの中では私は強い女でも愛嬌のない女でもなく、目に入れても痛くない可愛らしい女の子という生き物らしい。正反対じゃないか、という私の疑問にもサンジは不思議そうな顔をしてどうしてと首を傾げる始末だ。
「そんなキャラじゃない」
「女の子は万華鏡みたいだよね」
「万華鏡?」
色んな面があるからドキドキするって意味、そう言ってサンジは私の頬に片手を添えた。どんな私がサンジに見えているのだろうか、可愛くない私?強がって意地っ張りの私?本当は普通の女の子の私?その碧眼に映る私は不安そうな顔を隠しもせず、サンジが発した言葉の続きを待っていた。
「これから沢山、君を知りたいな」
知って欲しい、理解して欲しい、そんな考えが浮かんだ自身に驚きを隠せない。以前の私だったら全てを隠しただろう、らしくない自身は心の奥底に眠らせて、男が求めた私を演じた。それでも結局、男が最後に求めたのは私と違う女だった。
「サンジは違うといいな……」
「ん?」
首を横に振り、私は曖昧に笑ってサンジの胸に顔を埋めた。この場所が最後の場所になればいいと願いながら。
万華鏡を回して中を覗かせるように私はゆっくりとサンジの前で仮面を脱いでいく。強がりを剥がして、勝手についたイメージ達を一枚、一枚剥がしていく。
「ナマエちゅわあん?」
今だって人生でいちばんらしくない真似をしている。食事の後片付けをしているサンジの腰に抱き着いて、その背中に頭を擦り付ける。スリスリなんて可愛らしい抱擁ではない、サンジの背骨に頭をゴリゴリと当て、サンジの仕事の邪魔をしている。
「……い、今の私は子供なの」
「うん?」
「だ、だから!子供みたいに甘やかして、欲しいっていうか……っ、あ、もう、今のナシ!」
自身の言葉を訂正するように私は首を左右に振るとサンジの腰から手を離して、キッチンから逃げ出そうとする。だが、すぐにサンジに後ろから捕まえられてしまう。
「甘やかされてェの」
後ろから顔を寄せられてサンジの吐息が耳に掛かる、ビクッと揺れた肩にサンジはくすくすと笑うと私のお腹に手を回す。
「おれも甘やかしてェのは山々なんだが子供みてェにっていうリクエストは聞けねェなァ」
「?」
「子供じゃなくてさ、恋人を甘やかしてもいいかい?」
未だに甘やかされる事に慣れていない私はサンジからの提案に小さく頷く事しか出来ない。もっと可愛くおねだり出来たら良かったのに結局、サンジからのパスが無ければ上手く甘える事すら出来ない。
「ナマエちゃん」
「なぁに」
「よく出来ました」
甘えてくる君も最高だ、とサンジは上機嫌に私の首筋に唇をチュッと触れさせた。そうすれば、私の中の万華鏡がまたくるりと回った。
「もっと、して」
「仰せのままに、ハニー」
『一人で生きていける女』
「レディを一人に出来ねェよ」
『君は強いから大丈夫』
「君の弱さが愛しくてたまんねェんだ」
『女は愛嬌』
「レディは万華鏡みてェに沢山の表情を持ってるんだね」
戯言を塗り替えたのは恋人の嘘偽りの無い言葉達だ。どんな男と付き合っても最終的には皆、私と正反対な女を選んだ。その度に傷付いていないフリをして強がる私。
「私でいいの」
泣いているのか笑っているのか分からない中途半端な顔を晒していた私の手を取ったのはサンジだった。
「おれは君がいい」
そう言ってサンジは私を腕に抱え込み、私をただの女の子にした。