短編2
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ボロボロの体を支え合うように私達は立ち上がった、サンジのシャツはもう二度と着れないくらいに血塗れだし、私の片腕はあらぬ方向を向きそうになっている。ハッキリ言ってお互いに満身創痍、今すぐにでも気を失った方が楽まである。
「今から不謹慎な事、言っていい?」
「目が覚めるぐらいの?」
「サンジは私を看取りたい?看取られたい?」
ワーオ、とサンジはわざと大袈裟なリアクションを取る。血濡れで声の張りだって無いのにサンジは普段通りに振る舞う、きっと歩くだけで精一杯なのに私が不安にならないように話に付き合ってくれる。
「この状況でヘビーな質問だね」
「目が覚めるでしょ」
「はは、確かに」
そう言って私達は瓦礫を避けながら、ゆっくりと一歩、一歩進んでいく。サンジの血は珍しいのにこんなに垂らして大丈夫なのだろうかと派手な戦闘が起こる度に心配になる。
「で、サンジは?」
「おれは一択だよ、君を置いていかねェ」
私の肩を支えるように回されたサンジの腕に力が入る。
「それに君は照れ屋さんだから死ぬ時ぐれェしか寝顔を見せてくれねェだろ」
「いつも勝手に見てるでしょ」
海賊だからベッドで眠るように逝けるとは思っていない。だが、想像するのは自由だ。サンジの皺くちゃになった手を握って、瞳の中に浮かぶ海を覗く。そして、航海した日々を胸に抱きながら眠りにつく。いい夢を、なんてお決まりな台詞を言いながらサンジは私の瞼にキスをするのだ。きっと、そうすれば私は未練無くサンジを置いて逝ける。
「……君の寝顔を見ながら、おれは君との思い出を振り返るんだ。出逢いからその日までの事、全部だ。それに今、話した事もきっと思い出す。思い出しながら君にまた恋をして、顔面をみっともねェぐれェに濡らすんだ」
サンジはそう言って笑みを溢して私に死ねない呪いを掛ける。泣き虫の寂しがり屋を置いて逝ったら死体が涙の海に溺れてしまいそうだ、冗談みたいな光景が容易に想像出来て笑える。
「ずるいなぁ」
「何が?」
ポカンと気の抜けたような顔をしたサンジが私の顔を覗く。腕は激痛だし体中のあちこちが傷んで今すぐ意識を飛ばしてしまいたい、それでも目を開き、足を止めないのはまだこの人を置いて逝けないからだ。
「サンジ、私達はどっちも看取らない」
「どういう意味?」
「死ぬ時は一緒、一瞬も遅れちゃ駄目よ」
「……新手のアイラブユーと受け取っても?」
手を繋いで、お互いの瞳を見つめ、息の根が止まる程のキスで死ぬのも悪くない。だけど、今はまだその時じゃない。
「愛しかないけど」
賑やかな声が聞こえる方に足を進める、あそこに合流すれば私達を生かす名医がいる。
「君だってずりィよ、これで死ねなくなった」
「死ぬ気だったの?」
「いいや、更々ねェよ」
まだ、君の起きてる可愛い顔を見たりねェから、そう言ってサンジは私の唇を攫っていった。血の味がする口付けは世界でいちばん最低で最高のキスだった。